山林だけ相続放棄はできる?期限3ヶ月・費用・放棄後の管理義務まで徹底解説【2026年版】
- 一般社団法人日本不動産管財

- 2025年4月21日
- 読了時間: 6分
「田舎の山林なんていらない。相続放棄したい」——親御さんが亡くなり、使い道のない山林の存在を知ったとき、最初に思い浮かぶのが相続放棄だと思います。
最初に、多くの方が誤解している3点をお伝えします。
山林だけを選んで放棄することはできません。 相続放棄は預貯金・自宅を含む全遺産をまとめて手放す手続きです
期限は「相続の開始を知った日」から3ヶ月です。ただし、過ぎてしまった場合でも認められる余地や、別の出口があります
放棄しても管理義務が残るという話は、2023年の法改正で扱いが変わりました。山林の場合、義務が残らないケースが多数です
この記事では、山林の相続放棄の判断基準・手続き・費用と、「山林のためだけに全部を放棄するのは損」なケースの見極め方を、山林の引き取り実績をもつ一般社団法人日本不動産管財が解説します。
大前提:山林「だけ」の相続放棄はできない
相続放棄は家庭裁判所への申述によって「初めから相続人でなかった」ことになる手続きです。したがって、いらない山林だけを放棄し、預貯金や自宅は相続する、という選択はできません。
このため、判断は次の二択になります。
遺産全体がマイナス(借金が多い等)、または山林以外に受け取りたい財産がない → 相続放棄が有力
預貯金・自宅など受け取りたい財産がある → 相続放棄は不向き。いったん相続した上で山林だけを手放す(後述の代替案)のが合理的
実際のご相談では後者が大半です。数十万円の預金があるだけでも、「全部放棄」と「相続して山林を処分」の損得は逆転します。
相続放棄の期限は3ヶ月——数え方と延長
期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月(熟慮期間)です。死亡日からではありません。疎遠だった親族の相続を後から知った場合、知った日から3ヶ月です。
財産調査が終わらない場合、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てられます(期限内に申立てが必要)
やってはいけないこと:遺産の預金を使う、遺産を売却する等の「処分」をすると、相続を承認したとみなされ(法定単純承認)、放棄できなくなります。山林の木を売る行為なども該当し得ます
3ヶ月を過ぎてしまった場合
原則は放棄できませんが、「相続財産が全く存在しないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある」場合には、財産の存在を知った時から3ヶ月として申述が受理される余地があります(判例による救済)。「借金の督促が来て初めて負債を知った」「数年後に山林の納税通知が来て初めて山林の存在を知った」といったケースです。認められるかは事情次第のため、この状況の方は速やかに弁護士・司法書士にご相談ください。
救済が難しい場合でも打つ手はあります。相続登記を済ませた上で、国庫帰属制度や引き取りサービスで山林だけを手放す道です(後述)。
相続放棄の手続きと費用
手続きの流れ:①戸籍等の必要書類収集 → ②相続放棄申述書を被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ提出(郵送可)→ ③裁判所からの照会書に回答 → ④受理通知。標準的には申述から受理まで数週間〜1ヶ月程度です。
費用の目安
依頼先 | 費用 |
自分で行う | 収入印紙800円+郵便切手+戸籍収集費用(数千円程度) |
司法書士に依頼(書類作成) | 3万〜5万円程度/人 |
弁護士に依頼(代理) | 5万〜10万円程度/人 |
相続財産清算人の選任が必要な場合 | 予納金として数十万〜100万円程度 |
最後の「相続財産清算人」は見落とされがちな費用です。相続人全員が放棄すると、山林を国庫等に引き継ぐには利害関係人が家庭裁判所に清算人選任を申し立てる必要があり、その予納金は申立人の負担になります。放棄したのに結局まとまった費用がかかる、という事態はここで起こります。
放棄しても管理義務は残る?——2023年改正後の正しい理解
「相続放棄しても管理責任からは逃れられない」という古い解説がネット上に残っていますが、民法改正(2023年4月施行・940条)で整理されました。
現在のルールでは、放棄時にその財産を「現に占有している」場合に限り、次の相続人等に引き渡すまでの保存義務を負います。遠方にあって一度も行ったことがないような山林は「現に占有している」とは言えないことが多く、その場合、保存義務は負いません。
ただし注意点が2つあります。
放棄すると相続権は次順位(親→兄弟姉妹→甥姪)へ移ります。何も知らない親族に山林と借金の問題が突然降りかかるため、放棄したら必ず次順位の親族に連絡してください。親族トラブルの最大の火種です
全員が放棄した場合、清算人が選任されるまで山林は宙に浮きます。事実上、誰も管理しない状態が続くことになります
放棄すべきか、相続して手放すべきか——損得の比較
相続放棄 | 相続した上で山林を手放す | |
他の遺産(預貯金・自宅) | すべて失う | 受け取れる |
費用 | 数千円〜(清算人が必要なら〜100万円) | 国庫帰属:25万〜40万円程度/引き取り:数十万円〜 |
期限 | 3ヶ月以内 | なし(相続登記は3年以内) |
親族への影響 | 次順位へ相続権が移る | なし |
山林の維持費(税金+管理で年数万円)を50年分積み上げても100万〜150万円程度です。他に受け取れる遺産がそれを上回るなら、相続放棄は「山林を捨てるために、より大きな財産を捨てる」選択になりかねません。
相続した山林の出口は主に2つです。
相続土地国庫帰属制度:相続取得の土地を国に返す制度。ただし山林は境界・立木・森林整備の壁で通りにくい実態があります(詳細:山林の承認率と失敗しない進め方)
引き取りサービス:要件の壁がなく、数週間〜1ヶ月で手放せます。7つの処分方法の比較は山林の処分方法へ
よくある質問(FAQ)
Q. 相続放棄したら、山林の固定資産税は払わなくてよいですか?
A. 受理されれば納税義務は初めから承継しなかったことになります。ただし、市町村が放棄を知らずに納税通知を送ってくることがあるため、受理通知書の写しを提示して対応してください。
Q. 兄弟のうち自分だけ放棄することはできますか?
A. できます。放棄は各相続人が単独で行えます。その場合、山林を含む遺産は他の相続人に帰属します。
Q. 原野商法の土地でも同じ考え方ですか?
A. 同じです。なお原野商法の土地は特有の注意点(二次被害等)があるため、原野商法の土地の対処法も併せてご覧ください。別荘地は別荘地の相続放棄へ。
Q. 遺産分割協議で「山林は誰も相続しない」と決めることはできますか?
A. できません。遺産分割は相続人の誰かに帰属させる手続きであり、所有者のいない状態は作れません。誰かが相続した上で処分するか、全員が家庭裁判所で放棄するかのいずれかです。
Q. 3ヶ月の期限が明日までです。間に合いますか?
A. 申述書の提出(発送)が期限内であれば間に合う可能性があります。至急、家庭裁判所または司法書士・弁護士にご連絡ください。判断に迷う場合は熟慮期間の伸長申立てという手もあります。
まとめ
山林の相続放棄は、①山林だけは選べない、②期限3ヶ月、③放棄後の管理義務は「現に占有」している場合のみ——この3点を押さえた上で、他の遺産と山林の維持費を天秤にかけて判断してください。受け取りたい財産があるなら、相続して山林だけを手放す方が合理的なケースが大半です。
