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不動産相続の現実と対策:売却困難な土地の生前対応完全ガイド

  • 執筆者の写真: 一般社団法人日本不動産管財
    一般社団法人日本不動産管財
  • 2 日前
  • 読了時間: 21分

更新日:7 時間前

はじめに:相続不動産の二極化する現実

不動産相続において、すべての土地が等しい価値を持つわけではありません。宅地や建物は比較的売却しやすい一方で、山林、原野、雑種地、そして農地(田畑)といった土地は売却が極めて困難な「負の遺産」となるケースが増加しています。

本記事では、こうした売却困難な不動産を相続する前に知っておくべき対策と、相続放棄を含めた選択肢について解説します。



第1章:売却可能性で分かれる不動産の明暗

売却しやすい不動産の特徴

宅地建物が売却しやすい理由は、基本的なインフラが整備されているという点にあります。都市部や郊外の住宅地にある物件は、居住用または投資用として一定の需要があり、適正価格であれば買い手を見つけることが可能です。

ただし、現実には地方の空き家や過疎地の宅地など、なかなか売れない物件も存在します。人口減少が進む地域では、築年数の古い家屋や立地条件の悪い宅地は、市場価格での売却が困難な場合があります。

しかし、こうした売れにくい宅地であっても、山林や原野と比較すれば売却の可能性は格段に高いといえます。その理由は以下の点にあります。

まず、車両がアクセスできることが大きな利点です。 建築基準法上の道路に接している宅地であれば、最低限の利用価値があります。また、電気・水道・下水道などのインフラが既に整備されているため、購入者にとって追加の設備投資が不要です。

こうした基本的な条件が整っているため、市場価格での売却が難しい場合でも、大幅な値下げや、場合によっては無償に近い価格であれば、引き取り手が現れる可能性があります。特に、DIYやリノベーションを趣味とする個人、農業や作業場として利用したい事業者、移住を検討している若い世代など、低価格であれば興味を示す層は存在します。

また、相続税の支払いや遺産分割のために早期売却が必要な場合、不動産会社による買取制度も利用できます。買取価格は市場価格より低くなりますが、確実性とスピードを重視する場合には有効な選択肢となります。


売却困難な不動産の実態

山林の売却困難性

山林の売却が困難な最大の理由は、林業の構造的な衰退です。木材価格は長期的に低迷し、伐採・搬出コストが売却益を上回る「逆ザヤ」状態が常態化しています。

特に深刻なのは、アクセスの問題です。林道がない、または長年の放置により崩落している山林が多く、そもそも現地に到達することすら困難な場合があります。車両が入れない土地は、管理はおろか、境界確認すら容易ではありません。

さらに、森林経営管理法により、森林所有者には適切な経営管理の責務があります。手入れされていない山林は、台風や大雨により倒木や土砂崩れが発生するリスクが高く、民法第717条により、これらが原因で第三者に損害を与えた場合、所有者責任を問われる可能性があります。

境界の問題も深刻です。山林の多くは明治時代の地租改正時に作成された公図を基にしており、現地との整合性が取れないケースが大半です。GPS測量により境界を確定しようとすれば、1ヘクタールあたり数十万円から百万円を超える費用がかかることもあります。

保安林に指定されている山林の場合、さらに制約が加わります。森林法により伐採や開発が厳しく制限され、所有者の自由な処分ができません。保安林の解除は極めて困難で、事実上、売却は不可能に近い状態となります。

原野の売却困難性

原野が売却困難である理由は、その立地と歴史的背景にあります。多くの原野は、都市部から遠く離れた山間部や過疎地域に位置し、道路アクセスすら確保されていない土地が大半です。電気、水道、下水道などのインフラは皆無で、開発には莫大な費用がかかります。

特に「原野商法」の負の遺産が、原野の売却を一層困難にしています。1970年代から1980年代にかけて、将来の値上がりを謳い文句に販売された原野の多くが、現在も塩漬け状態となっています。これらの土地は、建築基準法上の道路に接していないため建築不可であったり、都市計画法の市街化調整区域に指定されていたりして、実質的に利用価値がありません。

原野は農地法の規制対象外であるため、農地のような転用規制はありませんが、それは逆に言えば、農業振興のような政策的支援も受けられないということを意味します。太陽光発電用地としての需要も、送電線への接続問題や固定価格買取制度(FIT)の買取価格低下により、ごく一部の好立地に限られています。

年間の固定資産税は数千円程度と安いものの、定期的な草刈りや不法投棄の防止など、管理費用は確実に発生します。特に不法投棄は深刻な問題で、一度ゴミが捨てられると次々と投棄が続き、撤去費用が数十万円に上ることもあります。


雑種地の売却困難性

雑種地とは、登記上の地目が宅地でも農地でも山林でもない、いわば「その他」に分類される土地です。駐車場、資材置場、太陽光発電施設用地などとして利用されている土地が該当しますが、その多くは中途半端な立地にあり、売却が困難です。

市街化調整区域内の雑種地は特に問題が大きく、都市計画法により建築物の建設が原則禁止されているため、利用方法が極めて限定されます。駐車場として利用するにも周辺に需要がなければ収益は見込めず、資材置場としても交通アクセスが悪ければ借り手はつきません。

また、雑種地の多くはインフラが未整備です。上下水道はもちろん、電気の引き込みさえない土地も珍しくありません。これらのインフラを整備するには、距離によっては数百万円から一千万円を超える費用がかかることもあります。

不動産業者も雑種地の取り扱いを敬遠する傾向があります。仲介手数料は売買価格に比例するため、価格の安い雑種地では労力に見合わないというのが実情です。結果として、市場に出回ることすら少なく、売却の機会自体が限られています。


農地(田畑)の売却困難性

農地の売却が困難である最大の理由は、農地法による厳格な規制です。農地法第3条により、農地の売買には農業委員会の許可が必要であり、原則として買主は農業者でなければなりません

買主に求められる要件は地域によって異なりますが、一般的には以下の条件を満たす必要があります。まず、買主またはその世帯員が農業に常時従事すること。次に、取得する農地のすべてを効率的に利用して耕作すること

これらの要件により、農地の買い手は地域の農業者に限定され、市場が極めて狭くなっています。新規就農者への売却も理論的には可能ですが、就農計画の提出や面接など、厳格な審査があります。

農地を宅地など他の用途に転用して売却する場合には、農地法第4条(自己転用)または第5条(転用目的での売買)の許可が必要です。市街化区域内の農地であれば農業委員会への届出で済みますが、市街化調整区域や非線引き区域の農地では都道府県知事の許可が必要となり、農振農用地(農業振興地域の農用地区域内の農地)に指定されている場合は、原則として転用許可が下りません

ただし、長期間耕作されていない農地については、地目変更という選択肢があります。農地として利用されていない土地が、現況に応じて雑種地や原野、山林などに地目変更されることがあります。

地目変更の具体的な方法として、まず現況証明を取得する必要があります。農業委員会に「非農地証明」の申請を行い、当該土地が農地として利用されていないことの証明を受けます。一般的には20年以上耕作放棄されており、農地への復旧が著しく困難な土地が対象となります。

非農地証明が発行されれば、法務局で地目変更登記を行うことができます。地目が雑種地や原野に変更されれば、農地法の規制から外れ、売買や転用が自由になります。ただし、農振農用地に指定されている場合は、まず農振除外の手続きが必要であり、これには相当の時間と労力がかかります。

相続により取得した農地が耕作放棄地となっている場合、農業委員会から利用意向調査や指導を受ける可能性があります。しかし、農業経験のない相続人が急に農業を始めることは現実的ではなく、かといって簡単に売却や転用もできないというジレンマに陥ります。



第2章:単独相続の重要性とその理由

なぜ単独相続が推奨されるのか

不動産の相続において、複数人での共有ではなく、単独相続を強く推奨します。これは単に手続きの簡便さだけでなく、将来にわたる不動産の有効活用と、家族間のトラブル防止という観点から重要な選択となります。

民法第251条により、共有物の変更(売却を含む)には共有者全員の同意が必要です。山林や原野のような売却困難な不動産を共有で相続した場合、一人でも売却に反対すれば、永久に処分できない「塩漬け不動産」となってしまいます。

特に問題となるのは、世代交代による権利関係の複雑化です。共有者の一人が亡くなると、その持分は相続人に承継され、共有者の数は増加していきます。三世代目になると、顔も知らない親戚同士が共有者となり、連絡を取ることすら困難になります。

山林の場合、共有状態での問題は特に深刻です。間伐や枝打ちなどの保育作業は管理行為として持分の過半数で決定できますが、皆伐や用途変更は共有者全員の同意が必要です。結果として、適切な管理ができず、荒廃が進むことになります。

農地の共有も同様の問題を抱えています。農地法の許可申請には共有者全員の同意が必要であり、一人でも反対すれば手続きが進められません。また、誰が耕作するのか、管理費用をどう分担するのかという問題が生じ、結果として耕作放棄地となるケースが多く見られます。


単独相続を実現するための遺産分割方法

単独相続を実現するためには、遺産分割協議において戦略的な工夫が必要です。民法第907条に基づく遺産分割の方法として、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つがあります。

代償分割が最も有効な方法です。売却困難な不動産を特定の相続人が単独で相続する代わりに、他の相続人には預貯金や有価証券などの金融資産を分配します。山林や原野の評価額は一般的に低いため、代償金の負担も比較的軽くなります。

ただし、将来の管理負担や所有者責任のリスクを考慮し、場合によっては「負担付き相続」として、管理費用相当額を他の相続人から受け取ることも検討すべきです。



第3章:相続放棄を見据えた生前対策の具体的手法

売れる不動産だけを事前に移転する戦略

相続財産に売却困難な不動産しか残らないよう、価値ある不動産を生前に処分する戦略は、次世代への負担を軽減する最も効果的な方法です。

例えば、都市部のマンションと地方の山林を所有している場合、マンションのみを生前贈与や売却により処分し、山林は相続財産に残すという方法が考えられます。これにより、相続人は山林の負担を避けるために相続放棄を選択することが可能となります。


生前贈与による計画的な資産移転

生前贈与を活用する際は、対象不動産の選別が極めて重要です。売却可能な宅地や建物は贈与により確実に承継し、山林や原野は贈与対象から除外します。

年間110万円の基礎控除を活用した暦年贈与により、計画的に資産を移転できます。ただし、令和6年1月1日以降の贈与については、相続開始前7年以内の贈与が相続税の課税価格に加算されることになりました(改正前は3年以内)。ただし、延長された4年間については、その価額の合計額から100万円を控除した金額が加算されます。

売却困難な不動産を相続放棄する前提であれば、この加算規定の影響を受けないため、早期の贈与開始が重要です。


農地の地目変更戦略

長期間耕作していない農地は、地目変更により売却の可能性を高めることができます。地目変更の手順は以下のとおりです。

  1. 現況確認と証拠収集

    • 20年以上の耕作放棄状態を証明する写真や資料を準備

    • 固定資産税の課税明細書など、管理状況を示す書類を整理

  2. 農業委員会への非農地証明申請

    • 申請書に必要事項を記入し、現況写真を添付

    • 農業委員会の現地調査に立ち会い

    • 非農地証明が発行されれば、農地法の規制から解放

  3. 法務局での地目変更登記

    • 非農地証明を添付して地目変更登記を申請

    • 登記が完了すれば、雑種地や原野として自由に売買可能

ただし、農振農用地に指定されている場合は、事前に農振除外の手続きが必要であり、これには1年以上かかることもあります。

この一連の手続きは土地家屋調査士事務所へ依頼することが可能です。


山林・原野の生前処分の試み

山林や原野を生前に処分する方法として、以下の選択肢があります。

隣地所有者への打診

隣接する土地の所有者は、境界管理の簡素化や一体利用のメリットがあるため、無償または低額での譲渡に応じる可能性があります。特に、境界トラブルを抱えている場合は、解決策として有効です。

自治体への寄付

防災用地や緑地保全地域として活用可能な山林であれば、自治体が受け入れる場合があります。ただし、管理費用がかかる土地は断られることが多いのが実情です。事前に都市計画課や環境保全課に相談することが重要です。

森林組合への相談

地域の森林組合が、森林経営計画に組み込める山林であれば、管理を引き受ける可能性があります。特に、まとまった面積の山林であれば、可能性が高まります。


家族信託による柔軟な資産管理

家族信託を活用し、売却可能な不動産のみを信託財産とすることで、実質的な財産の分離が可能です。山林や原野は信託財産から除外し、相続時に放棄しやすい状態を作ることができます。

信託契約により、委託者が認知症等により判断能力を失った場合でも、受託者が信託契約に従って財産を管理・処分できます。これにより、売却のタイミングを逃すことなく、計画的な資産承継が可能となります。



第4章:相続放棄制度の正確な理解と活用

相続放棄の法的効果と注意点

相続放棄は、民法第915条により、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、山林や原野などの調査に時間がかかる場合は、期間の伸長を申請できます。

相続放棄が受理されると、初めから相続人とならなかったものとみなされます。これにより、売却困難な不動産の管理責任や固定資産税の負担から解放されますが、価値ある不動産や証券、現金も含めてすべての相続財産を放棄することになります。

相続放棄をした者の管理責任について、民法第940条第1項により、現に占有している財産についてのみ保存義務を負います。遠方の山林で一度も現地に行ったことがない場合は、現に占有していないと解釈される可能性が高く、管理責任は生じないと考えられます。


相続財産清算人の選任

全員が相続放棄をした場合、利害関係人の申立てにより相続財産清算人(旧:相続財産管理人)が選任されます。予納金は20万円から100万円程度必要ですが、山林や原野のみの場合、そもそも選任申立てをする利害関係人がいないことが多く、事実上放置される例も少なくありません。

ただし、固定資産税の滞納が続くと、自治体が利害関係人として申立てを行う場合があります。この場合、相続放棄をした者に予納金の負担を求められることはありませんが、手続きに協力する必要があります。



第5章:相続土地国庫帰属制度の詳細と現実

制度の概要と基本要件

相続土地国庫帰属法(正式名称:相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)は、令和5年4月27日に施行されました。この制度により、相続または遺贈により取得した土地を国に引き渡すことが可能になりましたが、厳格な要件が設定されています。


相続土地国庫帰属制度の要件一覧

以下の表は、相続土地国庫帰属制度を利用するための要件を詳細にまとめたものです。

区分

要件

根拠・補足

申請できる人

相続または遺贈により土地を取得した者。共有地の場合は共有者全員での共同申請が必要。

売買・贈与による取得者は対象外。相続人に対する遺贈のみ可。法2条

建物の不存在

建物が存在しない土地であること。未登記建物も含めて一切の建物がないことが必要。

建物がある土地は申請段階で却下。解体後の申請は可能。法2条3項1号

担保権等の不存在

抵当権、質権、地上権、地役権等の担保権・用益物権が設定されていないこと。

担保権等が設定されている土地は却下事由に該当。法2条3項2号

境界の明確性

境界が明らかであり、所有権の存否・範囲について争いがないこと。

境界不明地、筆界未定地は申請不可。隣地との紛争がないことが必要。法2条3項5号

通路等の利用がない

通路その他の他人による使用が予定される土地でないこと。

私道、里道、水路用地等は対象外。現に通行の用に供されている土地も不可。法2条3項3号

土壌汚染がない

土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されていないこと。

汚染の除去後であれば申請可能。調査費用は申請者負担。法2条3項4号

管理組合等との契約がない

別荘地等で管理組合との管理契約や管理費支払義務がある土地でないこと。

国庫帰属後も管理費請求等のトラブルが予想される土地は不承認。法5条1項5号

崖地でない

勾配30度以上かつ高さ5メートル以上の崖がない土地。崖の管理に過分な費用・労力を要しないこと。

崖地は不承認事由。擁壁等により安全性が確保されていれば承認の可能性。法5条1項1号

管理阻害要因がない

土地の管理・処分を阻害する工作物、車両、樹木その他の有体物が地上に存しないこと。

廃車、廃棄物、倒木の危険がある樹木等は除去が必要。法5条1項2号

地下埋設物がない

除去しなければ土地の管理・処分に支障を来す有体物が地下に存しないこと。

産業廃棄物、建物基礎、浄化槽等の地下埋設物は除去が必要。法5条1項3号

審査手数料

土地一筆につき14,000円の審査手数料を納付(収入印紙)。

申請時に法務局に納付。不承認でも返還されない。法令

負担金

承認時に10年分の土地管理費相当額を納付。原則20万円/筆。面積により加算あり。

宅地、農地、森林等の地目や面積により算定式が異なる。政令・法10条

制度利用の実態と課題

この表から分かるように、相続土地国庫帰属制度の要件は極めて厳格です。特に売却困難な山林、原野、雑種地、農地については、以下のような問題があります。

山林の場合の問題点:

  • 境界確定が必須であり、山林は境界が不明確なケースが多い

  • 測量費用だけで数百万円かかる可能性

  • 崖地(勾配30度以上、高さ5m以上)は対象外

  • 急傾斜地の山林は事実上利用不可

  • 倒木の危険がある樹木は除去が必要

原野・雑種地の場合:

  • 不法投棄物がある場合は撤去が必要

  • 撤去費用は申請者負担

  • 地下埋設物(古い建物基礎等)の除去も必要

  • 境界が不明確な場合が多い

  • 負担金20万円は固定資産税と比較すると割高

農地の場合:

  • 農振農用地は実質的に対象外となる可能性

  • 耕作放棄により原野化している場合の扱いが不明確

  • 境界が不明確な農地が多い

共有地の場合の困難性:

  • 共有者全員の同意が必要

  • 一人でも反対すれば申請不可

  • 相続により共有となった土地は特に調整が困難


負担金の詳細と費用対効果

負担金の算定基準:

  • 原則として一筆20万円(原野、雑種地、農地等)

  • 市街化区域内の宅地・農地は面積に応じて加算

  • 森林は面積に応じて算定(数十万円~百万円超の場合も)

審査手数料と総費用:

  • 審査手数料:14,000円/筆(不承認でも返還なし)

  • 境界確定費用:数十万円~数百万円

  • 建物解体費用:100万円以上(建物がある場合)

  • 不法投棄物撤去費用:数十万円~

  • 総費用が100万円を超えることも珍しくない


制度利用を検討すべきケース

以下のような場合は、費用をかけても国庫帰属を検討する価値があります。

  1. 所有者責任のリスクが高い土地

    • 崖崩れ、倒木の危険がある土地(ただし要件を満たす場合)

    • 不法投棄が頻発する土地

  2. 管理費用が継続的に発生する土地

    • 定期的な草刈りが必要な土地

    • 境界管理でトラブルが絶えない土地

  3. 精神的負担が大きい土地

    • 遠方で管理が困難な土地

    • 相続人間で押し付け合いになっている土地

ただし、要件の厳格さと費用負担を考慮すると、実際に利用できるケースは限定的です。施行から1年以上が経過しましたが、山林や原野の国庫帰属の承認例は少なく、制度の利用は進んでいないのが実情です。



第6章:専門家との連携による最適解の追求

各専門家の役割と相談のポイント

不動産の種類別相談先:

山林・原野に関する相談:

  • 森林組合:山林の管理

  • 土地家屋調査士:境界確定、測量、地積更正

  • 不動産鑑定士:山林・原野の適正評価

農地に関する相談:

  • 農業委員会:非農地証明、農地法の許可申請

  • 農協(JA):農地の売買斡旋、新規就農者の紹介

  • 農地中間管理機構:農地の貸借・売買の仲介

  • 土地家屋調査士・行政書士:農地法許可申請書類の作成

相続手続き全般:

  • 司法書士:相続登記、相続放棄手続き、遺言書作成

  • 税理士:相続税試算、生前贈与の税務相談

  • 弁護士:遺産分割協議、相続紛争の解決


相続土地国庫帰属制度の申請サポート

国庫帰属制度の申請には、専門家のサポートが不可欠です。

法務局での事前相談:

  • 申請前に法務局で無料相談を受けることが可能

  • 要件を満たすかどうかの事前確認が重要

  • 必要書類や手続きの流れを確認

司法書士による申請代理:

  • 申請書類の作成から提出まで一括サポート

  • 境界確定や測量の専門家との連携

  • 費用は10万円~30万円程度(案件により異なる)

土地家屋調査士による境界確定:

  • 境界が不明確な場合は必須

  • 隣地所有者との立会い調整

  • GPS測量により正確な境界を確定


総合的なコンサルティングの重要性

最近では、「負動産」問題に特化した専門家もいます。これらの専門家は、処分困難な不動産の実態を理解し、現実的な解決策を提案してくれます。

初回相談で準備すべき書類:

  1. 固定資産税納税通知書(評価額、税額の確認)

  2. 登記事項証明書(権利関係の確認)

  3. 公図・地積測量図(境界の確認)

  4. 現況写真(建物、工作物の有無)

  5. 相続関係説明図(相続人の確認)

相談時に確認すべきポイント:

  • 各選択肢(売却、贈与、相続放棄、国庫帰属)のメリット・デメリット

  • 概算費用と期間

  • 成功事例と失敗事例

  • 段階的な実行計画


地域による支援制度の活用

自治体によっては、空き家・空き地バンクや独自の支援制度があります。

空き家・空き地バンクの活用:

  • 無償譲渡も含めた物件登録が可能

  • 移住希望者とのマッチング

  • 自治体による仲介サポート

自治体の独自制度:

  • 解体費用の補助(上限50万円~100万円)

  • 危険空き家の行政代執行(費用は所有者負担)

  • 寄付受け入れ制度(条件付き)

これらの制度は自治体により大きく異なるため、まず市町村の空き家対策担当課に相談することが重要です。



終章:次世代への責任ある資産承継のために

新たな価値観への転換

「先祖代々の土地は守るべき」という価値観から、「次世代に負担を残さない」という新たな価値観への転換が求められています。山林や原野、雑種地、農地などの売却困難な不動産は、早期の処分または相続放棄を前提とした計画的な対策が不可欠です。

国土交通省の統計によれば、所有者不明土地は九州本島の面積に匹敵する約410万ヘクタールに達しており、その多くが相続を契機に発生しています。この問題をこれ以上深刻化させないためにも、一人一人が責任ある行動を取ることが重要です。


具体的な行動計画

今すぐ始めるべき5つのステップ:

1. 現状把握(1か月以内)

  • 所有する全不動産のリスト作成

  • 固定資産税納税通知書・名寄帳で正確な情報を確認

  • 登記簿謄本を取得して権利関係を確認

  • 現地確認または現況写真の撮影

2. 評価と選別(3か月以内)

  • 売却可能性により「残すべき不動産」と「処分すべき不動産」に分類

  • インフラの有無(道路、電気、水道)を最重視

  • 将来の利用可能性を現実的に判断

  • 維持管理コストを年間ベースで算出

3. 生前対策の実行(6か月~1年)

  • 売却可能な不動産の贈与・売却を最優先

  • 農地の地目変更手続きの開始

  • 山林・原野の処分交渉(隣地、自治体、NPO)

  • 国庫帰属制度の要件確認と準備

4. 家族会議の開催(定期的に)

  • 単独相続の重要性について全員で共有

  • 相続放棄の可能性について率直に話し合い

  • 各自の意向を文書化

  • 専門家を交えた相談会の実施

5. 専門家相談と計画策定(継続的に)

  • 複数の専門家から意見を聞く

  • 費用対効果を考慮した現実的な計画を策定

  • 段階的に実行し、定期的に見直し

  • 法改正や制度変更への対応


最後に:行動を起こす勇気

売却困難な不動産の問題は、放置すればするほど解決が困難になります。境界は不明確になり、建物は老朽化し、相続人は増加していきます。

しかし、今行動を起こせば、まだ間に合います。完璧な解決策がなくても、できることから始めることが大切です。

重要なのは以下の3点です:

  1. 問題を直視する勇気

    • 売れない不動産があることを認める

    • 次世代への負担を真剣に考える

    • 感情論ではなく現実的に判断する

  2. 家族で話し合う勇気

    • タブー視せずにオープンに議論

    • 相続放棄も選択肢として検討

    • 単独相続の重要性を共有

  3. 専門家に相談する勇気

    • 恥ずかしがらずに現状を説明

    • 費用を惜しまず適切なアドバイスを受ける

    • 複数の意見を聞いて総合的に判断


山林、原野、雑種地、農地などの売却困難な不動産を「負の遺産」として次世代に押し付けることなく、計画的な生前対策により解決への道筋をつけることが、これからの時代の責任ある資産承継といえるでしょう。

本記事で紹介した制度や手法、特に相続土地国庫帰属制度の厳格な要件を理解した上で、それぞれの家族に最適な相続対策を構築してください。専門家のサポートを受けながら、今こそ行動を起こし、次世代への責任ある資産承継を実現する時です。

あなたの決断と行動が、子や孫の世代を「負動産」の呪縛から解放します。今日から、最初の一歩を踏み出してみませんか。


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