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負動産を確実に手放す完全マニュアル/相続登記義務化・国庫帰属制度・全14ケースの解決策

  • 執筆者の写真: 一般社団法人日本不動産管財
    一般社団法人日本不動産管財
  • 6月10日
  • 読了時間: 33分

更新日:10月20日


「相続した土地が売れない」「使わない別荘の管理費が重い」「空き家の固定資産税だけ払い続けている」──こうした"負動産"に悩む方が全国で急増しています。

国土交通省の調査によると、所有者不明土地は全国で約410万ヘクタール(九州の面積に匹敵)、空き家は約849万戸に達し、今後さらに増加が見込まれています。

しかし、2024年4月から相続登記が義務化され、2023年には相続土地国庫帰属制度が開始されるなど、負動産を手放すための環境は大きく変わりつつあります。

本記事では、負動産の14の典型ケースごとに、具体的な処分方法、費用、期間、注意点を実務レベルで徹底解説します。


目次

第1部:負動産とは?知っておくべき基礎知識

  1. 負動産の定義と社会問題化の背景

  2. 2024年〜2025年の重要な法改正

  3. 負動産を放置するリスクと費用

第2部:土地の負動産|8つのケースと解決策

  1. 【ケース1】相続登記未済の土地

  2. 【ケース2】山奥の土地・原野

  3. 【ケース3】借地の建物

  4. 【ケース4】共有名義の土地

  5. 【ケース5】再建築不可物件

  6. 【ケース6】農地

  7. 【ケース7】墓地がある土地

  8. 【ケース8】別荘地(管理費継続)

第3部:建物の負動産|6つのケースと解決策

  1. 【ケース9】空き家(老朽化)

  2. 【ケース10】事故物件

  3. 【ケース11】アスベスト建物

  4. 【ケース12】マンション区分(管理費滞納)

  5. 【ケース13】家賃滞納物件

  6. 【ケース14】ゴミ屋敷

第4部:処分に使える3つの制度完全ガイド

  1. 相続登記義務化制度

  2. 相続土地国庫帰属制度

  3. 所有者不明土地・建物管理制度

第5部:実践編

  1. あなたに最適な処分方法診断チャート

  2. 処分の手順とタイムライン

  3. よくある質問と回答



第1部:負動産とは?知っておくべき基礎知識

負動産の定義と社会問題化の背景

負動産とは: 売却も活用も困難で、所有し続けることで固定資産税や管理費などの金銭的負担、管理責任などの法的リスクが発生する不動産を指します。

負動産が増加している5つの理由:

1. 人口減少と地方の過疎化

  • 2025年の日本の人口は約1億2,400万人(ピーク時から約400万人減少)

  • 地方の人口流出により需要が消失

  • 特に山間部や離島では土地の買い手が皆無

2. 相続の複雑化

  • 平均寿命の延伸により相続発生時の年齢が上昇(相続人が60〜70代)

  • 相続人が都市部在住で現地管理が困難

  • 複数回の相続で権利関係が複雑化

3. バブル期の不動産投資の後遺症

  • 1980年代の原野商法・別荘地販売の土地が大量に残存

  • 当時の価格の1/100以下でも売れない

  • 管理会社の倒産で荒廃

4. 維持管理コストの上昇

  • 解体費用の高騰(人手不足、規制強化)

  • 固定資産税の負担感増大

  • 遠方の土地の管理委託費

5. 不動産市場の二極化

  • 都市部と地方の不動産価格格差が拡大

  • 地方の土地は「無料でも引き取り手がない」状態に

統計データ:

  • 相続した土地を「活用していない」:約42%(国土交通省2024年調査)

  • 空き家の約28%が「売却も賃貸も困難」(総務省2023年住宅・土地統計調査)

  • 土地を「手放したい」が実現できず:約65%(民間調査2024年)


2024年〜2025年の重要な法改正

負動産問題に対応するため、近年多くの法改正が行われています。

【改正1】相続登記の義務化(2024年4月1日施行)

改正の概要: 不動産を相続した場合、相続を知った日から3年以内に相続登記を行うことが義務付けられました。

対象者:

  • 2024年4月1日以降に相続した不動産の相続人(全員)

  • 2024年4月1日以前に相続した未登記の不動産も対象(3年間の猶予)

罰則:

  • 正当な理由なく期限内に登記しない場合:10万円以下の過料

  • 虚偽の登記:30万円以下の罰金

経過措置: 2024年3月31日以前に相続が発生している場合でも、2027年3月31日までに登記が必要です。

簡易な手続き:相続人申告登記 遺産分割協議が難航している場合、「相続人申告登記」という簡易な方法で義務を果たすことができます。

  • 費用:無料

  • 必要書類:戸籍謄本など最小限

  • 効果:義務違反を回避できる(ただし正式な所有権移転ではない)

【改正2】相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日開始)

相続した不要な土地を、一定の条件を満たせば国に引き取ってもらえる制度です。

対象土地:

  • 相続または遺贈により取得した土地

  • 建物が存在しない更地

  • 境界が明確

  • 担保権が設定されていない

  • その他の却下要件に該当しない

手続きの流れ:

  1. 法務局への事前相談

  2. 申請書の提出(審査手数料1.4万円)

  3. 法務局による審査(3〜9ヶ月)

  4. 承認後、負担金の納付(20万円〜)

  5. 国への所有権移転

【改正3】所有者不明土地・建物管理制度(2023年4月1日施行)

所有者が不明な土地や、共有者の一部が不明な場合に、裁判所が管理人を選任して管理・処分ができる制度です。

2つの制度:

  • 所有者不明土地・建物管理命令:所有者全員が不明

  • 管理不全土地・建物管理命令:管理が不十分で周囲に悪影響

活用場面:

  • 共有者の一部と連絡が取れない

  • 相続人が多数いて合意形成が困難

  • 隣地の管理不全により自分の土地に被害


負動産を放置するリスクと費用

放置すればするほど、負担とリスクは増大します。

金銭的負担

年間の維持費(例:地方の空き家と土地):

  • 固定資産税:3万円〜15万円

  • 都市計画税:5,000円〜3万円

  • 火災保険:2万円〜5万円

  • 定期巡回費用:5万円〜12万円

  • 草刈り・清掃:3万円〜8万円

  • 年間合計:13.5万円〜43万円

10年放置すれば、135万円〜430万円の負担です。

法的リスク

1. 特定空家の指定(空家等対策特別措置法) 倒壊の危険や衛生上問題がある空き家は「特定空家」に指定され:

  • 固定資産税の住宅用地特例が解除(税額が最大6倍に)

  • 行政による強制解体(費用は所有者に請求)

  • 50万円以下の過料

指定事例: 全国で累計約2.7万件が特定空家に指定(2024年3月時点)

2. 損害賠償責任 所有する不動産が原因で他人に損害を与えた場合、民法717条により所有者は賠償責任を負います。

実際の事例:

  • 空き家の屋根瓦が落下し通行人が負傷:賠償額380万円

  • 管理不十分な山林から倒木:賠償額520万円

  • 不法投棄されたゴミの処理費用請求:撤去費用150万円

3. 相続登記義務違反 前述の通り、2024年4月以降は10万円以下の過料が科される可能性があります。


次世代への負担の先送り

放置した負動産は、子や孫の世代に引き継がれます。

世代が進むほど困難になる理由:

  • 相続人の数が増加(2世代で4〜8人、3世代で10人以上)

  • 土地との縁が薄くなり、処分への関心が低下

  • 相続人間の連絡が困難化

  • 権利関係がさらに複雑化

放置期間別の処分難易度:

  • 相続直後:難易度★★☆☆☆(処分可能性大)

  • 10年経過:難易度★★★☆☆(手間と費用増加)

  • 20年経過:難易度★★★★☆(権利関係複雑化)

  • 30年以上:難易度★★★★★(事実上処分不可能な例も)



第2部:土地の負動産|8つのケースと解決策

【ケース1】相続登記未済の土地

典型的な状況

「父が20年前に亡くなったが、田舎の土地の相続登記をしていない。固定資産税の納付書は自分に来ているが、登記簿上は父の名義のまま。最近、相続登記が義務化されたと聞いて不安になっている。」

該当する方:

  • 親や祖父母名義の土地を相続したが登記していない

  • 固定資産税は払っているが名義変更していない

  • 複数の相続人がいるが遺産分割協議をしていない

  • 他の相続人と疎遠で連絡が取りづらい


なぜ処分できないのか

法律上の理由: 不動産の売却、譲渡、担保設定などの処分行為は、登記簿上の所有者しか行えません。名義が故人のままでは、一切の処分行為ができません。

実務上の問題:

  • 買主や譲受人が見つかっても取引できない

  • 国庫帰属制度も利用できない

  • 銀行融資も受けられない


解決方法:3つのステップ

ステップ1:相続人の確定

相続人全員を確定するため、被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本等を収集します。

必要な書類:

  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本

  • 相続人全員の現在の戸籍謄本

  • 相続人全員の住民票

  • 固定資産評価証明書

取得方法: 本籍地の市区町村役場で請求。郵送でも可能。本籍地が複数回変わっている場合、それぞれの役場から取り寄せが必要。

費用:1通450円〜750円(合計5,000円〜1.5万円程度)


ステップ2:遺産分割協議または法定相続登記

パターンA:相続人全員で協議して決める(遺産分割協議)

相続人全員で誰が不動産を相続するか協議し、遺産分割協議書を作成します。

メリット:

  • 特定の1人に所有権を集約できる

  • 後の処分がスムーズ

デメリット:

  • 全員の合意が必要

  • 連絡が取れない相続人がいると困難

必要書類:

  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印)

  • 相続人全員の印鑑証明書

パターンB:法定相続分で登記(法定相続登記)

協議なしで、法律で定められた割合で共有登記します。

メリット:

  • 相続人全員の合意不要

  • 最も早く登記できる

デメリット:

  • 共有状態となり、後の処分に全員の同意が必要

  • 次の世代でさらに複雑化

パターンC:相続人申告登記(簡易手続き)

2024年4月に新設された制度。正式な所有権移転ではなく、「自分が相続人である」ことだけを申告する簡易な登記です。

メリット:

  • 遺産分割協議不要

  • 他の相続人の関与不要

  • 義務違反を回避できる

  • 費用無料

デメリット:

  • 所有権の登記ではない

  • この後、正式な相続登記が必要

  • 売却などの処分はできない

活用場面:

  • とりあえず過料を回避したい

  • 遺産分割協議に時間がかかる

  • 将来的に処分予定だが、今すぐではない


ステップ3:相続登記の申請

法務局に相続登記を申請します。

申請方法:

  • 窓口申請:管轄の法務局に直接持参

  • オンライン申請:登記・供託オンライン申請システム

  • 郵送申請:管轄の法務局に郵送

登録免許税: 固定資産税評価額 × 0.4%

例:評価額500万円の土地 → 2万円 例:評価額100万円の土地 → 4,000円

免税措置: 以下の場合は登録免許税が免除されます。

  • 評価額100万円以下の土地(2025年3月31日まで延長)

  • 相続人が登記前に死亡した場合の二次相続

費用と期間

自分で行う場合:

  • 費用:5,000円〜3万円(戸籍・登録免許税など)

  • 期間:1〜3ヶ月

司法書士に依頼する場合:

  • 費用:5万円〜15万円(報酬込み)

  • 期間:1〜2ヶ月

複雑なケース(相続人多数・古い登記):

  • 費用:10万円〜30万円

  • 期間:3〜6ヶ月


次のステップ

相続登記完了後、以下の選択肢が可能になります。

  • 売却活動の開始

  • 国庫帰属制度への申請

  • 寄付・譲渡の交渉

  • 一般社団法人への引取り依頼



【ケース2】山奥の土地・原野

典型的な状況

「祖父が50年前に購入した山林を相続した。場所は県境の山の中で、道路もなく、現地に行くのも困難。不動産会社に相談したが『買い手は付かない』と断られた。固定資産税は年間5,000円だが、ずっと払い続けるのも無駄に思える。」

該当する方:

  • バブル期に購入した原野や別荘予定地

  • 原野商法の被害物件

  • 山間部の山林・原野

  • アクセス道路なし

  • 境界が不明確

なぜ処分できないのか

需要がゼロに近い理由:

  1. インフラ未整備

    • 道路なし(林道も未整備)

    • 電気・水道・ガスなし

    • 携帯電話の電波も届かない

  2. 利用用途が限定的

    • 農地として不適(傾斜地・痩せた土壌)

    • 宅地として不可(建築基準法の要件を満たさない)

    • 林業としても採算不可(木材価格の低迷)

  3. 管理が困難

    • 所有者が遠方在住

    • 境界が不明確

    • 定期的な見回りができない

取引事例: ある地方の山林(3,000平方メートル)を無料で譲渡しようとしたが、引き取り手が見つからず、最終的に5万円を支払って引き取ってもらった事例も。

解決方法:優先順位つきの5つの選択肢

選択肢1:相続土地国庫帰属制度の活用(最優先)

最も確実に手放せる方法ですが、厳しい要件があります。

主な要件: ✓ 建物・工作物がない更地 ✓ 境界が明確(境界杭あり・測量図あり) ✓ 担保権・使用収益権がない ✓ 通路として使用されていない ✓ 土壌汚染がない ✓ 崖地でない(勾配30度未満)

必要な事前準備:

  1. 境界確定

    • 土地家屋調査士に依頼

    • 費用:30万円〜80万円

    • 期間:6〜12ヶ月

  2. 建物・残置物の撤去

    • 小屋・倉庫があれば解体

    • 費用:10万円〜50万円

  3. 測量図の作成

    • 地積測量図の作成

    • 費用:10万円〜30万円(境界確定に含まれる場合あり)

申請手続き:

  • 審査手数料:1万4,000円/筆

  • 審査期間:半年〜1年

  • 負担金:20万円/筆(山林の場合の標準額)

合計費用:50万円〜150万円

メリット:

  • 完全に手放せる

  • 固定資産税・管理責任から解放

  • 次世代への負担なし

デメリット:

  • 事前準備に高額な費用

  • 要件が厳しい

  • 却下される可能性もある


選択肢2:一般社団法人等への有償引取り

国庫帰属の要件を満たせない場合の現実的な選択肢です。

対応可能な団体:

  • 一般社団法人日本不動産管財

  • その他の不動産引取り専門法人

引取り条件:

  • 境界不明でも相談可(ケースバイケース)

  • 建物・残置物があっても対応可能な場合あり

  • 複数筆まとめて引取り可

費用:

  • 引取り費用:30万円〜200万円(土地の状況による)

  • 事前調査費:5万円〜10万円

メリット:

  • 国庫帰属より要件が緩い

  • 対応が早い(3〜6ヶ月)

  • 確実に手放せる

デメリット:

  • 費用がかかる

  • すべての土地が対象ではない


選択肢3:隣接地所有者への譲渡

隣接する土地の所有者にとっては、土地を拡張できるメリットがあります。

交渉の進め方:

  1. 登記簿から隣接地所有者を特定

  2. 手紙または訪問で打診

  3. 測量図を提示(あれば)

  4. 無償譲渡を提案

  5. 固定資産税の精算を提案(前向きに検討してもらうインセンティブ)

成功のポイント:

  • 隣接地所有者が林業事業者や地元住民の場合は可能性大

  • 「土地をまとめて管理したい」ニーズがあれば成約しやすい

  • 境界確定費用を負担する提案も効果的

費用:

  • 譲渡契約書作成:3万円〜5万円

  • 登記費用:3万円〜7万円(通常は譲受人負担)

  • 贈与税:基礎控除110万円以内なら不要


選択肢4:森林組合への寄付

地域の森林組合が受け入れる場合があります。

受入れ条件:

  • 一定規模以上(1ヘクタール以上が目安)

  • 森林として維持管理が可能

  • 公益性がある場所

  • 境界が明確

可能性: 実際には受け入れを断られるケースが多いですが、条件が合えば無償で引き取ってもらえます。

費用:

  • 寄付契約書作成:3万円〜5万円

  • 登記費用:2万円〜5万円

選択肢5:とりあえず保有(最小限管理)

どうしても処分できない場合、最小限の管理で保有します。

最小限の管理とは:

  • 年1回の境界確認

  • 不法投棄の確認

  • 近隣への連絡先の通知

  • 賠償責任保険への加入(年間1〜3万円)

この選択肢を選ぶ判断基準:

  • 固定資産税が年間1万円未満

  • 将来的に処分の可能性がある

  • 処分費用が用意できない


費用と期間の比較

方法

費用

期間

確実性

国庫帰属

50万〜150万円

1〜2年

中(要件次第)

有償引取り

30万〜200万円

1〜6ヶ月

隣地譲渡

3万〜10万円

1〜6ヶ月

森林組合寄付

3万〜8万円

3〜9ヶ月

保有継続

年間1〜5万円

-

-



【ケース3】借地の建物

典型的な状況

「父が地主から土地を借りて、その上に自宅を建てて住んでいた。父が亡くなり、私が相続したが、もう住む予定はない。建物を解体して土地を返したいが、借地契約書がなく、地主も高齢で施設に入っており、どう処理すればいいかわからない。」

該当する方:

  • 借地上の建物を相続

  • 借地契約書が見つからない

  • 地主が高齢・不在・連絡不可

  • 建物が老朽化して解体が必要

なぜ処分できないのか

法律上の問題:

  • 借地権(土地を借りる権利)は相続されるが、土地の所有権はない

  • 建物を第三者に売却するには地主の承諾が必要(承諾料が発生)

  • 建物だけでは担保価値がなく、買い手がつかない

実務上の問題:

  • 建物を残したまま土地を返還できない

  • 解体費用がかかる

  • 地主と連絡が取れない

  • 契約内容が不明確


解決方法:段階的アプローチ

ステップ1:借地契約の内容確認

まず、借地関係の実態を把握します。

確認すべき事項:

  • 地代の支払い状況(銀行振込記録など)

  • 借地契約の種類(旧法・新法、普通借地・定期借地)

  • 契約期間

  • 更新の有無

  • 建物の登記内容(借地権の登記があるか)

確認方法:

  1. 自宅の書類を探す(契約書・領収書・通帳)

  2. 法務局で建物の登記簿謄本を取得

  3. 市区町村で固定資産税課税明細を確認

  4. 地主または不動産管理会社に問い合わせ

ステップ2:地主との交渉

交渉の目的:

  • 建物を解体して土地を返還することへの合意

  • 原状回復費用の負担について合意

  • 敷金・保証金の返還について確認

交渉の進め方:

  1. 地主に書面で連絡(内容証明郵便推奨)

  2. 解体して返還したい旨を伝える

  3. 費用負担について協議

  4. 合意書を作成

一般的な費用負担:

  • 原則:借地人(相続人)が解体費用を負担

  • 交渉次第:地主が一部負担する場合もある

地主が不在・連絡不可の場合:

パターンA:地主の相続人を探す

  • 登記簿謄本から地主の住所・氏名を確認

  • 住民票の除票を追跡

  • 相続人を特定して連絡

パターンB:不在者財産管理人の選任

  • 家庭裁判所に申立て

  • 管理人が地主に代わって契約処理

  • 費用:予納金30万円〜100万円、申立て費用3万円〜5万円

ステップ3:建物の解体と土地の返還

地主と合意ができたら、解体を実施します。

解体の手順:

  1. 解体業者から見積もり取得(3社程度)

  2. 解体業者と契約

  3. 解体工事(1〜2週間)

  4. 土地を更地にして返還

  5. 地主に確認してもらう

  6. 借地契約の終了合意書を作成

  7. 建物の滅失登記(法務局)

解体費用:

  • 木造30坪:90万円〜150万円

  • 木造50坪:150万円〜250万円

  • 鉄骨造:1.2〜1.5倍

  • RC造:1.5〜2倍

補助金の活用: 自治体によっては解体費用の補助金があります。

  • 補助率:1/2〜2/3

  • 上限額:50万円〜100万円

  • 条件:築年数、空き家、特定空家など


費用と期間

標準的なケース:

  • 解体費用:100万円〜200万円

  • 滅失登記:2万円〜5万円

  • 合意書作成:3万円〜5万円

  • 合計:105万円〜210万円

  • 期間:3〜6ヶ月

地主不在のケース:

  • 上記に加えて不在者財産管理人の費用:30万円〜100万円

  • 合計:135万円〜310万円

  • 期間:9〜18ヶ月



【ケース4】共有名義の土地(所有者不明・連絡不可)

典型的な状況

「祖父が亡くなった際、土地が兄弟3人の共有名義になった。その後、長男である父も亡くなり、私が父の持分を相続。他の2人の叔父とは30年以上連絡を取っておらず、1人は海外、もう1人は行方不明。土地を売却したいが、共有者全員の同意が必要と言われて困っている。」

該当する方:

  • 相続で共有状態になった土地

  • 共有者の一部と音信不通

  • 共有者が多数(5人以上)

  • 共有者の中に死亡している人がいる可能性

なぜ処分できないのか

法律上の原則: 共有不動産の売却、大規模修繕、建物の建築などには、共有者全員の同意が必要です(民法251条)。

実務上の困難:

  • 1人でも連絡が取れないと何もできない

  • 共有者が増えるほど合意形成が困難

  • 次の世代でさらに共有者が増加

放置すると:

  • 共有者がさらに増加(相続のたびに倍増)

  • 最終的に「所有者不明土地」化

  • 事実上、誰も処分できなくなる


解決方法:2023年改正民法の新制度活用

2023年4月施行の改正民法により、共有者不明の場合でも処分が可能になりました。

解決策1:所有者不明共有者がいる場合の売却(民法262条の2)

要件:

  • 共有者の一部が不明(相当な努力を払っても判明しない)

  • 他の共有者の持分の過半数の同意

手続き:

  1. 不明共有者の探索(戸籍・住民票の追跡)

  2. 探索結果の記録作成

  3. 裁判所に公告を申請(6ヶ月間)

  4. 公告期間終了後、過半数の同意で売却可能

  5. 不明共有者の持分相当額は供託

費用:

  • 所有者調査:10万円〜30万円

  • 公告費用:5万円〜15万円

  • 弁護士・司法書士費用:30万円〜80万円

  • 合計:45万円〜125万円

期間:9〜18ヶ月

解決策2:共有物分割請求(民法258条)

共有状態を解消するため、裁判所に共有物の分割を請求します。

分割の方法:

  1. 現物分割:土地を物理的に分割

  2. 代金分割:土地を売却して代金を分配

  3. 価格賠償:1人が土地を取得し、他の共有者に金銭を支払う

手続き:

  1. 共有者に協議を申し入れ

  2. 協議不成立の場合、裁判所に調停申立て

  3. 調停不成立の場合、訴訟提起

  4. 裁判所が分割方法を決定

費用:

  • 調停申立て:3,000円〜5,000円

  • 訴訟提起:土地の価額による(数万円〜数十万円)

  • 弁護士費用:50万円〜150万円

  • 測量費用(現物分割の場合):30万円〜100万円

  • 合計:50万円〜300万円

期間:1〜3年

解決策3:所有者不明土地管理命令(新制度)

共有者の一部が不明な場合、裁判所に管理人の選任を申し立てます。

要件:

  • 共有者の一部が不明

  • 管理が困難または不可能

手続き:

  1. 家庭裁判所に申立て

  2. 裁判所が管理人を選任(弁護士・司法書士など)

  3. 管理人が不明共有者に代わって売却等を実行

  4. 売却代金から管理人報酬を支払い

  5. 残金は供託

費用:

  • 申立て費用:3万円〜5万円

  • 予納金:30万円〜100万円(管理人報酬の予納)

  • 弁護士・司法書士への依頼:20万円〜50万円

  • 合計:53万円〜155万円

期間:6〜18ヶ月

管理人の報酬:

  • 月額:5万円〜15万円

  • 売却完了まで継続


どの方法を選ぶべきか

判断基準:

状況

推奨方法

理由

一部の共有者が不明・他の共有者と協力可能

所有者不明共有者がいる場合の売却

最も早く確実

共有者全員が判明しているが合意できない

共有物分割請求

強制的に解決

ほとんどの共有者が不明

所有者不明土地管理命令

包括的に解決

費用と期間の比較

方法

費用

期間

成功率

不明共有者売却

45万〜125万円

9〜18ヶ月

共有物分割請求

50万〜300万円

1〜3年

管理命令

53万〜155万円

6〜18ヶ月



【ケース5】再建築不可物件

典型的な状況

「都市部の古い住宅地の一角に父が所有していた家を相続。道路に面しているが、幅が1.8メートルしかなく、建築基準法の接道義務(幅4メートル以上の道路に2メートル以上接する)を満たしていない。不動産会社に相談したら『再建築不可なので売れない』と言われた。」

該当する方:

  • 接道義務を満たしていない土地

  • 建築基準法上の道路に接していない

  • 旗竿地で通路部分が2メートル未満

  • 古い住宅地の袋地


なぜ処分できないのか

建築基準法の規制: 建築物を建てる場合、敷地は幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(建築基準法43条)。

再建築不可物件の問題点:

  • 既存建物を取り壊すと新しい建物が建てられない

  • 増築・大規模修繕も制限される

  • 住宅ローンが組めない(金融機関が融資しない)

  • 市場価値が大幅に下がる(相場の3〜5割)


解決方法:段階的アプローチ

解決策1:接道義務を満たすように改善

方法A:隣地の一部を購入または借りる

隣地の一部(通路部分)を購入または借りて、接道要件を満たします。

必要な幅:

  • 最低2メートル以上

  • 長さは道路まで

交渉の進め方:

  1. 隣地所有者を特定(登記簿謄本)

  2. 測量士に依頼して必要な面積を確定

  3. 隣地所有者に打診

  4. 購入または地役権設定を交渉

購入する場合の費用:

  • 土地代:都市部で1平方メートルあたり10万円〜50万円

  • 測量費用:20万円〜40万円

  • 登記費用:10万円〜20万円

  • 合計:50万円〜300万円程度

地役権設定の場合の費用:

  • 地役権設定料:一時金50万円〜200万円

  • 登記費用:5万円〜15万円

  • 合計:55万円〜215万円

メリット:

  • 再建築可能になり、市場価値が大幅アップ

  • 住宅ローンが組める

  • 買い手が見つかりやすくなる

デメリット:

  • 隣地所有者の協力が必要

  • 高額な費用がかかる可能性

  • 交渉が難航する場合がある

方法B:建築基準法43条2項の許可を取得

特定の条件を満たせば、接道義務の例外として建築が認められる場合があります。

許可の要件:

  • 敷地の周囲に広い空地がある

  • 農道・私道等に2メートル以上接している

  • 安全上・防火上・衛生上支障がない

手続き:

  1. 特定行政庁(市区町村の建築指導課)に相談

  2. 必要書類を準備(配置図、敷地図、周辺状況図など)

  3. 建築審査会の同意を得る

  4. 許可の取得

費用:

  • 設計事務所への依頼:20万円〜50万円

  • 申請手数料:1万円〜3万円

  • 合計:21万円〜53万円

期間:3〜6ヶ月

メリット:

  • 隣地購入より安価

  • 接道義務の例外として建築可能に

デメリット:

  • 許可が下りる保証はない

  • 条件が厳しい

  • 将来の売却時にも説明が必要

解決策2:再建築不可のまま売却

接道改善が困難な場合、再建築不可のまま売却を試みます。

買主となる可能性がある人:

  • 隣地所有者(土地をまとめたい)

  • 投資家(リフォームして賃貸)

  • 再建築不可専門の買取業者

売却価格の目安:

  • 通常の相場の30%〜50%

  • 立地が良ければ60%〜70%

売却のポイント:

  • リフォーム歴をアピール

  • 立地の良さを強調

  • 賃貸実績があれば提示

  • 複数の買取業者に打診

費用:

  • 仲介手数料:売却価格 × 3% + 6万円

  • 測量(必要な場合):20万円〜40万円

解決策3:賃貸として活用

すぐに売却できない場合、賃貸に出して収益化します。

賃貸のメリット:

  • 再建築不可でも賃貸は可能

  • 固定資産税をカバーできる

  • 建物の管理ができる

賃貸のポイント:

  • リフォームで魅力向上

  • 家賃を相場より低めに設定

  • 敷金・礼金を低く設定

  • 「DIY可」などの条件で差別化

費用:

  • リフォーム費用:50万円〜200万円

  • 管理委託費:家賃の5%〜10%

解決策4:国庫帰属制度(可能性は低い)

接道義務を満たさない土地は、国庫帰属制度の却下要件に該当する可能性が高いですが、条件次第では申請可能です。

申請できる可能性がある条件:

  • 建物を解体して更地にする

  • 通路としての利用がない

  • 境界が明確

却下される可能性が高い条件:

  • 他人の通行の用に供されている

  • 形状が極端に不整形


費用と期間の比較

方法

費用

期間

効果

隣地購入

50万〜300万円

3〜12ヶ月

市場価値大幅アップ

地役権設定

55万〜215万円

3〜9ヶ月

市場価値アップ

43条2項許可

21万〜53万円

3〜6ヶ月

建築可能に

再建築不可売却

仲介手数料のみ

3〜12ヶ月

価格は相場の3〜5割

賃貸活用

50万〜200万円

1〜3ヶ月

収益化



【ケース6】農地

典型的な状況

「父から農地を相続したが、自分は会社員で農業をする予定はない。近所の人に買いたいと言われたが、農業委員会の許可が必要で、『農家でないと買えない』と言われた。農地転用も『農業振興地域なので認められない』と役場に断られた。」

該当する方:

  • 農地を相続したが耕作していない

  • 農業委員会の許可が下りない

  • 農業振興地域・生産緑地に指定されている

  • 買い手はいるが売却できない


なぜ処分できないのか

農地法による規制:

農地の売買(農地法3条): 農地を農地のまま売買する場合、農業委員会の許可が必要です。

許可の要件:

  • 買主が農業従事者であること

  • 一定規模以上の農地を取得すること(地域により異なる)

  • 効率的に利用すること

非農家への売却は原則不可。

農地の転用(農地法4条・5条): 農地を宅地などに転用する場合も許可が必要です。

転用が認められない農地:

  • 農業振興地域の農用地区域内(青地)

  • 第1種農地(優良農地)

  • 甲種農地

実務上の問題:

  • 買い手が見つかっても売却できない

  • 転用許可が下りない

  • 遊休農地として指導を受ける可能性

  • 固定資産税は安いが管理の手間がかかる


解決方法:段階的な規制クリア

解決策1:農地のまま農家に売却(最もスムーズ)

対象買主:

  • 地元の農家

  • 農業法人

  • 認定農業者

  • 新規就農者

手続き:

  1. 買主を見つける(農業委員会で紹介してもらえる場合も)

  2. 農業委員会に許可申請

  3. 許可取得(通常1〜2ヶ月)

  4. 売買契約・所有権移転

売却価格の目安:

  • 地域差が大きい

  • 10アールあたり:10万円〜300万円

  • 都市近郊:高い

  • 中山間地:低い

費用:

  • 仲介手数料:売却価格 × 3% + 6万円

  • 測量(必要な場合):20万円〜50万円

  • 登記費用:5万円〜10万円

期間:2〜4ヶ月

解決策2:農地転用→宅地として売却

転用が認められる農地の場合、宅地にしてから売却すると高値で売れます。

転用可能な農地:

  • 第2種農地(市街地近郊の農地)

  • 第3種農地(市街地内の農地)

  • 農業振興地域外の農地

転用の手続き:

  1. 農業委員会に相談

  2. 転用許可申請

  3. 都道府県知事の許可(4ヘクタール以下)

  4. 許可取得(通常2〜6ヶ月)

  5. 地目変更登記

転用許可の要件:

  • 転用目的が具体的で確実

  • 周辺農地に悪影響を与えない

  • 代替地がない

費用:

  • 行政書士への依頼:10万円〜30万円

  • 地目変更登記:5万円〜10万円

  • 造成工事(必要な場合):50万円〜200万円

期間:3〜9ヶ月

市場価格の変化:

  • 農地のまま:100万円

  • 宅地転用後:300万円〜500万円(地域による)

解決策3:農業振興地域からの除外(農振除外)

農業振興地域内の農地(青地)の場合、まず農振除外が必要です。

農振除外の要件:

  • 農用地区域以外に代替地がない

  • 農業生産に大きな支障を及ぼさない

  • 土地改良事業完了後8年以上経過

手続き:

  1. 市町村に相談

  2. 農振除外申請(年1〜2回の受付期間あり)

  3. 県との協議(6〜12ヶ月)

  4. 除外決定

  5. その後、農地転用許可申請

費用:

  • 行政書士への依頼:20万円〜50万円

期間:1〜2年

注意点: 農振除外は非常にハードルが高く、却下される可能性も高いです。

解決策4:農業委員会による利用調整(農地中間管理機構の活用)

自分で買い手を見つけられない場合、農地中間管理機構(農地バンク)を活用します。

仕組み:

  1. 農地を農地バンクに貸し出しまたは売却

  2. 農地バンクが担い手農家に転貸または売却

  3. 所有者は賃料または売却代金を受け取る

メリット:

  • 買い手探しが不要

  • 公的機関が仲介

  • 固定資産税分程度の収入

デメリット:

  • 借り手が見つからない場合もある

  • 売却価格・賃料は市場より低め

賃料の目安:

  • 10アールあたり年間5,000円〜2万円

解決策5:相続土地国庫帰属制度の活用

農地も一定の条件で国庫帰属の対象となります。

要件:

  • 農業振興地域外

  • 境界明確

  • 担保権なし

  • 勾配が緩やか

費用:

  • 審査手数料:1万4,000円

  • 負担金:面積に応じて(原則20万円〜)

注意点: 農業振興地域内の農地は対象外です。


費用と期間の比較

方法

費用

期間

価格

農地のまま売却

数万円

2〜4ヶ月

転用後売却

10万〜50万円

3〜9ヶ月

農振除外→転用

20万〜100万円

1〜2年

農地バンク

無料

3〜12ヶ月

国庫帰属

15万〜50万円

6〜12ヶ月

-



【ケース7】墓地がある土地

典型的な状況

「山林を相続したら、その中に先祖代々の墓があることが判明。既に菩提寺は別の場所にあり、この墓は使っていない。墓を撤去して土地を処分したいが、勝手に撤去できないと聞いた。墓じまいの費用も高額と聞いて困っている。」

該当する方:

  • 山林内に墓地・墓石がある

  • 使用していない墓がある

  • 墓じまいを検討している

  • 親族間で意見が分かれている

なぜ処分できないのか

墓地埋葬法による規制: 墓地・埋葬に関しては「墓地、埋葬等に関する法律」により厳格に規制されています。

勝手に撤去できない理由:

  • 遺骨の移動(改葬)には市区町村長の許可が必要

  • 無許可で移動すると「死体遺棄罪」に問われる可能性

  • 墓石の撤去には閉眼供養が必要(宗教的配慮)

土地処分への影響:

  • 墓地がある状態では売却・譲渡が困難

  • 国庫帰属制度も対象外

  • 買い手・譲受人が見つからない


解決方法:墓じまいの完全手順

ステップ1:親族間の合意形成

まず、親族全員で墓じまいについて合意を得ます。

話し合うべき事項:

  • 墓じまいを行うかどうか

  • 遺骨の移転先(新しい墓地・納骨堂・永代供養墓・散骨)

  • 費用負担の分担

  • スケジュール

注意点: 一部の親族が反対している場合、強行すると親族トラブルに発展します。十分な話し合いが必要です。

ステップ2:現在の墓地の管理者に連絡

墓地が寺院墓地の場合は住職に、公営墓地の場合は管理事務所に連絡します。

確認事項:

  • 墓地使用権の有無

  • 離檀料の有無と金額

  • 撤去の手続き

離檀料について:

  • 法律上の義務ではない

  • 相場:10万円〜30万円(地域・寺院により大きく異なる)

  • 高額請求された場合は弁護士に相談

ステップ3:遺骨の移転先を決定

選択肢1:新しい墓地に移す

  • 費用:墓石代100万円〜300万円 + 永代使用料50万円〜200万円

  • 将来の管理も必要

選択肢2:納骨堂

  • 費用:10万円〜100万円(都市部は高い)

  • 屋内で管理が楽

選択肢3:永代供養墓(合祀墓)

  • 費用:5万円〜50万円

  • 将来の管理不要

  • 他の遺骨と一緒に埋葬

選択肢4:散骨

  • 費用:5万円〜30万円

  • 墓がなくなる

  • 宗教観による賛否

選択肢5:手元供養

  • 費用:数千円〜10万円

  • 自宅で保管

  • 将来的な処分が課題

ステップ4:改葬許可の取得

遺骨を移動するには、市区町村長の改葬許可が必要です。

手続き:

  1. 新しい墓地・納骨堂の受入証明書を取得

  2. 現在の墓地の管理者から埋葬証明書を取得

  3. 現在の墓地のある市区町村に改葬許可申請

  4. 改葬許可証の交付(通常1〜2週間)

必要書類:

  • 改葬許可申請書

  • 埋葬証明書(現墓地管理者発行)

  • 受入証明書(新墓地管理者発行)

  • 申請者の身分証明書

費用:

  • 改葬許可:無料〜数百円(自治体による)

  • 埋葬証明書:無料〜3,000円

ステップ5:閉眼供養(魂抜き)

墓石から魂を抜く宗教儀式を行います。

依頼先:

  • 菩提寺の住職

  • 近隣の寺院

  • 宗派を問わない僧侶派遣サービス

お布施の相場:

  • 3万円〜10万円

ステップ6:遺骨の取り出しと墓石の撤去

石材店に依頼して遺骨を取り出し、墓石を撤去します。

作業内容:

  1. 墓石の解体

  2. 遺骨の取り出し・洗浄

  3. 基礎の撤去

  4. 更地にして整地

  5. 産業廃棄物として墓石を処分

費用:

  • 墓石撤去:1平方メートルあたり8万円〜15万円

  • 標準的な墓(2平方メートル):16万円〜30万円

  • 山林内でアクセス困難な場合:+5万円〜20万円

期間:1〜2日

ステップ7:遺骨の納骨

新しい墓地・納骨堂に遺骨を納めます。

開眼供養(魂入れ): 新しい墓地に魂を入れる儀式。お布施3万円〜10万円。

ステップ8:土地の更地化完了

墓地跡地を完全に更地にします。

作業内容:

  • 墓石の基礎コンクリートの撤去

  • 地面を平らに整地

  • 必要に応じて植林

これで土地の処分が可能になります。


墓じまいの合計費用

標準的なケース:

  • 閉眼供養:5万円

  • 墓石撤去:20万円

  • 改葬許可手続き:1,000円

  • 遺骨取り出し:3万円

  • 永代供養墓への納骨:30万円

  • 開眼供養:5万円

  • 合計:63万円

高額になるケース:

  • 離檀料が高額:+30万円

  • 山林でアクセス困難:+20万円

  • 新しい墓を購入:+200万円

  • 合計:300万円以上


期間

  • スムーズな場合:3〜6ヶ月

  • 親族の合意形成に時間がかかる場合:1〜2年



【ケース8】別荘地(管理費継続課金)

典型的な状況

「バブル期に父が購入した別荘地の土地を相続。建物はなく、一度も使ったことがない。しかし管理会社から毎年10万円の管理費請求が続いている。解約したいと申し出たが『管理契約は解除できない』『土地を手放すなら違約金が必要』と言われた。」

該当する方:

  • リゾート開発地の土地を所有

  • 別荘地・ペンション村などの分譲地

  • 使用していないが管理費が請求される

  • 売却したいが買い手がいない


なぜ処分できないのか

管理契約の問題:

契約の特徴:

  • 土地の売買契約と同時に管理契約が締結される

  • 「土地所有者は管理組合に加入し、管理費を支払う義務がある」

  • 一方的な解約ができない条項がある

  • 半永久的に管理費が請求される

法律上の論点:

  • 管理契約は原則有効

  • ただし、消費者契約法により不当条項は無効になる場合も

  • 実際のサービス提供がない場合は減額請求の可能性

処分が困難な理由:

  • 相続土地国庫帰属制度は「管理契約がある土地」は対象外

  • 買主は管理費負担を嫌がる

  • 無償でも引き取り手がいない

実態:

  • 道路は荒れ果てている

  • 上下水道は未整備のまま

  • セキュリティは機能していない

  • それでも管理費だけは請求される


解決方法:段階的アプローチ

解決策1:管理契約の見直し交渉

まず、管理契約の内容を精査し、不当な部分がないか確認します。

確認すべきポイント:

  • 管理契約書の有無と内容

  • 実際に提供されているサービス

  • 管理費の使途

  • 解約条項の内容

不当な契約の例:

  • 一切のサービス提供がないのに管理費を請求

  • 解約に法外な違約金を設定

  • 一方的に管理費を値上げ

交渉の進め方:

  1. 管理会社に書面で連絡

  2. サービス内容と管理費の妥当性を確認

  3. 減額または解約を申し入れ

  4. 応じない場合は消費者生活センターに相談

  5. 弁護士に依頼して法的措置も検討

消費者契約法による無効主張: 一方的に不利な契約条項は無効となる可能性があります。

判例: 別荘地の管理費について、実際のサービスが提供されていない場合、管理費の減額または契約の無効が認められた事例があります。

費用:

  • 弁護士相談:5,000円〜1万円(初回相談)

  • 弁護士依頼:20万円〜50万円(交渉・訴訟)

解決策2:有償での引取りサービス活用

管理契約がある土地は国庫帰属の対象外ですが、民間の引取りサービスは対応可能な場合があります。

引取り可能な法人:

  • 一般社団法人日本不動産管財

  • その他の不動産引取り専門法人

引取り条件:

  • 管理契約の確認

  • 将来の管理費負担についての協議

  • 引取り費用の見積もり

費用:

  • 引取り費用:50万円〜300万円

  • 管理契約の承継または解約

メリット:

  • 確実に手放せる

  • 将来の管理費負担から解放

デメリット:

  • 高額な費用

  • 管理会社との交渉が必要な場合も

解決策3:管理会社または管理組合への寄付

管理会社や管理組合自体に土地を寄付する方法です。

交渉のポイント:

  • 「管理費を払い続けるより、土地を差し上げる方が双方にメリット」

  • 管理組合が土地を集約して活用できる可能性

  • 共用地として活用

成功の可能性:

  • 低いが、交渉する価値はある

  • 管理組合が土地をまとめて売却を検討している場合は可能性あり

費用:

  • 贈与契約書作成:3万円〜5万円

  • 登記費用:3万円〜5万円

解決策4:他の所有者と共同で対応

同じ別荘地の他の所有者と連携して、集団で対応します。

具体的な方法:

  1. 他の所有者の連絡先を入手(管理会社に依頼)

  2. 同じ悩みを持つ所有者で集まる

  3. 弁護士を共同で依頼

  4. 管理会社と集団交渉

  5. 必要に応じて集団訴訟

メリット:

  • 費用を分担できる

  • 交渉力が増す

  • 世論・メディアの注目を集められる

実例: ある別荘地で、100人以上の所有者が集まって管理費の減額と解約の集団交渉を行い、一部成功した事例があります。

解決策5:相続放棄(次の相続時)

自分の代で処分できない場合、子供の代で相続放棄してもらう選択肢もあります。

注意点:

  • 相続放棄は3ヶ月以内に家庭裁判所に申述

  • 他の財産も放棄することになる

  • 管理責任は残る場合がある

根本的な解決にはならないが、次世代への負担を減らす一つの方法です。


費用と期間の比較

方法

費用

期間

成功率

契約見直し交渉

20万〜50万円

6〜18ヶ月

低〜中

有償引取り

50万〜300万円

3〜9ヶ月

管理組合へ寄付

6万〜10万円

3〜12ヶ月

集団交渉

5万〜20万円(分担)

6〜24ヶ月



第3部:建物の負動産|6つのケース(要約版)

【ケース9】空き家(老朽化)

解決策:

  1. 自治体の解体補助金活用(上限50万〜100万円)

  2. 解体後、土地を売却または国庫帰属

  3. 特定空家指定前に対応

費用:解体100万〜200万円

【ケース10】事故物件

解決策:

  1. 特殊清掃・リフォーム(30万〜150万円)

  2. 事故物件専門の買取業者(相場の3〜5割)

  3. 告知義務は3年程度で緩和

【ケース11】アスベスト建物

解決策:

  1. アスベスト調査(5万〜15万円)

  2. 除去工事(100万〜500万円)

  3. 封じ込め・囲い込みも選択肢

  4. 自治体の補助金活用

【ケース12】マンション区分(管理費滞納)

解決策:

  1. 滞納分の一括清算(数十万〜数百万円)

  2. 滞納分込みで買取業者に売却

  3. 管理組合と分割払い交渉

【ケース13】家賃滞納物件

解決策:

  1. 内容証明で契約解除通知

  2. 明け渡し訴訟→強制執行(費用30万〜100万円、期間6〜18ヶ月)

  3. 建物を放棄して土地のみ処分も選択肢

【ケース14】ゴミ屋敷

解決策:

  1. 遺品整理・ゴミ屋敷専門業者(20万〜200万円)

  2. 自治体の補助金(上限50万円程度)

  3. 清掃後に売却または解体



第4部:処分に使える3つの制度完全ガイド

制度1:相続登記義務化(2024年4月施行)

対象者:2024年4月1日以降に相続した全ての不動産 義務:相続を知った日から3年以内に登記 罰則:10万円以下の過料 費用:5,000円〜3万円(自分で行う場合)

新設制度:相続人申告登記

  • 簡易な手続きで義務を果たせる

  • 遺産分割協議前でも可能

  • 費用無料


制度2:相続土地国庫帰属制度(2023年4月開始)

対象土地の要件: ✓ 建物がない更地 ✓ 境界明確 ✓ 担保権なし ✓ 通路として使用されていない ✓ 土壌汚染なし ✓ 崖地でない ✓ 管理契約なし

費用:

  • 審査手数料:1万4,000円/筆

  • 負担金:20万円/筆(標準額)

手続き期間:6ヶ月〜1年

メリット:完全に手放せる デメリット:事前準備に高額費用、要件が厳しい


制度3:所有者不明土地・建物管理制度(2023年4月施行)

2つの類型:

  1. 所有者不明土地管理命令:所有者が不明

  2. 管理不全土地管理命令:管理が不十分

活用場面:

  • 共有者の一部が不明

  • 隣地が管理不全で被害

  • 相続人多数で合意困難

手続き: 家庭裁判所に申立て→管理人選任→管理・売却

費用:

  • 申立て:3万〜5万円

  • 予納金:30万〜100万円

  • 管理人報酬:月5万〜15万円



第5部:実践編

あなたに最適な処分方法診断チャート

STEP 1:名義確認 登記簿上の名義は自分?

  • YES → STEP 2へ

  • NO → 相続登記が必要

STEP 2:建物・残置物の有無 建物やゴミがある?

  • YES → 解体・撤去が必要(国庫帰属は不可)

  • NO → STEP 3へ

STEP 3:境界確認 境界は明確?

  • YES → STEP 4へ

  • NO → 境界確定が必要(費用30万〜80万円)

STEP 4:売却可能性 買い手が見つかる可能性は?

  • 高い → 通常の売却活動

  • 低い → STEP 5へ

STEP 5:国庫帰属の要件 管理契約・崖地・通路などの問題は?

  • ない → 国庫帰属制度へ

  • ある → 有償引取りまたは保有継続



よくある質問と回答

Q1. 相続登記しないとどうなる? A. 2024年4月以降、3年以内に登記しないと10万円以下の過料。売却・処分も不可能。

Q2. 国庫帰属の成功率は? A. 約30%程度。境界不明や建物ありで却下されるケースが多い。

Q3. 処分費用が用意できない場合は? A. 最小限の管理で保有継続。賠償責任保険に加入(年1〜3万円)。

Q4. 相続放棄すれば完全に手放せる? A. 管理責任は残る場合がある。次の相続人や家庭裁判所が選任する管理人に引き継がれるまで。

Q5. 複数の負動産を一括で処分できる? A. 一般社団法人などの引取りサービスなら可能。費用は個別に見積もり。


行動チェックリスト

処分を進める前に確認すべき項目:

□ 登記簿謄本を取得したか □ 固定資産税評価額を確認したか □ 建物・残置物の有無を確認したか □ 境界の状況を確認したか □ 他の相続人・共有者と連絡が取れるか □ 管理契約の有無を確認したか □ 処分方法の選択肢を比較したか □ 費用の準備ができているか □ 専門家(司法書士・土地家屋調査士・弁護士)に相談したか



まとめ:今すぐ行動を開始しよう

負動産は放置すればするほど、処分が困難になります。

今すぐできる3つのアクション:

  1. 現状把握

    • 登記簿謄本を取得

    • 固定資産税の通知書を確認

    • 現地の写真を撮影

  2. 処分方法の選択

    • 本記事の診断チャートで最適な方法を確認

    • 複数の選択肢を比較

    • 費用と期間の見積もり

  3. 専門家への相談

    • 司法書士(相続登記)

    • 土地家屋調査士(境界確定)

    • 不動産会社(売却査定)

    • 一般社団法人(引取り相談)

最も重要なこと: 「いつか処分しよう」ではなく、「今年中に手続きを開始する」という決断です。

2024年4月の相続登記義務化により、負動産を巡る環境は大きく変わりました。この機会に、長年の懸案を解決しましょう。

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