【2025年最新版】負動産を手放す完全ガイド― 相続登記義務化・国庫帰属・管理命令までケース別に徹底解説 ―
- 一般社団法人日本不動産管財
- 6月10日
- 読了時間: 11分
はじめに
相続してしまった“売れない土地”、管理費だけがかかる“使わない別荘”、誰も使わないまま朽ちていく“遠方の空き家”。
「どうして手放せないのか」「どんな制度が使えるのか」「どこに相談すればいいのか」
この記事では、負動産を実際に処分したい方に向けて、ケース別に現実的な打開策をお伝えします。
第1部|土地に関する負動産ケースと処分方法(全8ケース)
【ケース1】名義が親や祖父母のまま。相続登記がされていない土地
よくある状況:
・遠方の土地を相続したが手続きしていない
・固定資産税の通知だけが届き続けている・他の相続人との連絡も取りづらい
なぜ処分できない?
・相続登記が済んでいないと売却も譲渡もできない
・2025年4月以降、相続登記は「義務化」(3年以内)される
解決方法:
・まずは「相続人申告登記」(簡易登記)で仮登録
・その後、遺産分割協議または単独相続登記へ・名義が確定すれば、売却・寄付・引取りが可能
【ケース2】山奥の土地。アクセスも悪く、買い手もつかない
よくある状況:
・山林や原野、売買実績がない地域・周囲はほぼ無人。境界も不明瞭
なぜ処分できない?
・需要がゼロに近く、売却・寄付ともに困難
・境界不明・登記不備だと制度利用もできない
解決方法:
・境界確定・名義整理の上で以下の制度を検討
1. 国庫帰属制度(建物・残置物なし+審査と費用あり)
2. 有償引取りサービス(民間で対応する法人もある)
【ケース3】親が借地に建てた建物。地主に返すこともできない
よくある状況:
・借地に建てられた建物(名義は親)
・借地契約は口約束。地主も高齢で不在
・建物は老朽化し、解体費も出せない
なぜ処分できない?
・借地契約の詳細が不明
・建物があることで土地を返せない
解決方法:
・借地契約書や地代支払いの記録を確認
・建物を除却すれば返還可能になる場合も
・地主不在なら「不在者財産管理人」を家庭裁判所に申立て
【ケース4】共有者と連絡が取れない土地(名義が兄弟・親戚と共有)
よくある状況:
・相続時に兄弟で共有になっていた
・他の共有者と音信不通
・一人では売却・譲渡ができない
なぜ処分できない?
・共有不動産は「全員の合意」が必要
・一人では法律上動かせない
解決方法:
・家庭裁判所に「共有物分割請求」や「管理命令」を申立て
・所有者不明土地等管理人の制度で、管理人による売却も可能
【ケース5】接道義務を満たしていないため、建物も売れない土地
よくある状況:
・道路に2m以上接していない
・「再建築不可物件」として扱われる
・売却や広告も出せない
なぜ処分できない?
・建築基準法により再建築できない土地は市場価値が大幅に下がる
・不動産会社が扱わないケースも多い
解決方法:
・近隣所有者と敷地延長
・通行地役権の交渉を行う
・それでも改善しなければ、国庫帰属制度などの制度利用も検討
【ケース6】農地であり、転用や売却の許可が降りない
よくある状況:
・農業振興地域、生産緑地に該当
・買い手はいるが「農業委員会の許可が出ない」
なぜ処分できない?
・農地法により、転用・売却には行政の許可が必要
・非農業者への売却は原則不可
解決方法:
・農振除外 → 農地転用 → 地目変更という段階的手続き
・どうしても困難なら、国庫帰属制度の利用条件を確認
【ケース7】お墓がある土地(墓地・仏壇・供養塔など)
よくある状況:
・山林内にお墓がある
・既に使っていないが、撤去費用が高額
・親族間でも意見が割れている
なぜ処分できない?
・墓地埋葬法により勝手な撤去や移設はできない
・地域との合意や改葬許可が必要
解決方法:
・閉眼供養 → 改葬許可 → 墓じまい(20〜50万円程度)
・撤去完了すれば他制度の利用(譲渡・国庫帰属)も可能になる
【ケース8】管理費がかかり続ける別荘地(利用予定なし)
よくある状況:
・リゾート開発地の土地(元分譲)
・使っていないが管理費が毎年発生
・売却実績も乏しく、需要がない
なぜ処分できない?
・毎年の管理費(5万〜20万円)が継続課金される
・管理契約が解除できず、制度の利用にも制限がある
解決方法:
・管理契約の内容を確認(解除条項・共有施設条項など)
・国庫帰属制度は「管理契約がある土地」は原則対象外
・有償での引取りや無償譲渡の交渉が現実的な選択肢
第2部|建物に関する負動産ケースと処分方法(全6ケース)
【ケース9】誰も住まない空き家。老朽化して危険
よくある状況:
・親が住んでいた家が空き家になっている
・築40年以上。雨漏りや傾きあり
・固定資産税はかかるが賃貸もできない
なぜ処分できない?
・修繕・解体費が高額(100万円以上)
・放置すると行政の「特定空家」指定リスク
・倒壊・火災・不法侵入の危険性あり
解決方法:
・写真と状況メモを残し、自治体に相談
・「解体補助金」の対象となることも
・相続登記→解体→国庫帰属制度の活用が視野に入る
【ケース10】事故物件や心理的瑕疵がある建物
よくある状況:
・自殺・孤独死
・事件があった物件
・近隣の風評も強く、不動産会社に断られる
・賃貸に出しても入居が決まらない
なぜ処分できない?
・心理的瑕疵による市場価値の大幅下落
・「告知義務」があるため、隠して売ることはできない
解決方法:
・一定年数経過で告知義務が緩和される場合あり
・専門業者による原状回復
・リフォームで改善可能・難しい場合は買取業者や引取り制度の活用も検討
【ケース11】アスベスト使用の古い建物
よくある状況:
・旧工場・倉庫
・住宅にアスベストの疑い
・売却を断られ、除去費用も不明
なぜ処分できない?
・アスベストは健康被害のリスクがあり、規制対象・除去工事には自治体への届出と高額な費用が必要
解決方法:
・まずは専門業者による調査(5〜15万円程度)
・封じ込め/囲い込み/除去の3選択肢
・除去後は通常売却・譲渡が可能になる場合も
【ケース12】管理費を長年滞納しているマンション区分所有
よくある状況:
・親が所有していたマンション1室を相続
・長年空室で賃貸にも出せず
・管理費・修繕積立金の滞納が数年分に
なぜ処分できない?
・売却時に「滞納分の一括支払い」が必要
・管理組合との関係悪化・訴訟リスクもある
解決方法:
・管理会社に連絡して滞納額と交渉可能性を確認
・滞納分を引き受ける条件で買取交渉する例もあり
・引取りサービスなどで売却不能でも処分できる場合も
【ケース13】借主が家賃を払わない。明け渡しができない
よくある状況:
・親名義の家を賃貸していたが滞納が続いている
・家主が亡くなり、相続人として困っている
・借主と連絡が取れず、自力では対応不能
なぜ処分できない?
・賃貸借契約が残っていると売却が困難
・法的手続きを経ずに立ち退きさせると違法
解決方法:
・内容証明で解除通知→訴訟→強制執行(数ヶ月〜1年)
・家賃回収より「明け渡し優先」で進める
・対応が長期化する場合は、建物は放棄
・土地のみの売却検討も
【ケース14】ゴミ屋敷化した建物で近隣トラブルに
よくある状況:
・故人の家に大量の生活ゴミ
・残置物がある
・悪臭・害虫・近隣からの苦情が発生
・親族は遠方で片付けに行けない
なぜ処分できない?
・室内に人が住めない状態でリフォームも困難
・行政処分対象になると、撤去費用を請求される可能性もある
解決方法:
・遺品整理
・ゴミ屋敷対応の専門業者に依頼
・自治体によっては補助金制度あり
・処分完了後は売却または制度利用が現実的に
第3部|負動産の処分に使える制度と費用の比較(2025年対応)
【制度1】相続登記の義務化(2025年4月開始)
制度の概要:
・不動産を相続した人は、3年以内に登記が義務付けられる
・正当な理由なく放置すると、10万円以下の過料対象に
・2025年以前に相続した未登記地も対象となる
対象者:
・名義が亡くなった親
・祖父母のままの土地や建物を相続した人
メリット:
・売却・譲渡・制度利用の前提条件となる
・将来的な相続トラブルを予防できる
デメリット:
・戸籍収集や遺産分割協議が必要な場合があり、手間がかかる
費用の目安:
・戸籍・住民票・評価証明書など:5,000円〜10,000円
・登録免許税:固定資産税評価額×0.004(例:評価100万円→4,000円)
・司法書士に依頼する場合:3万円〜10万円が相場
【制度2】相続土地国庫帰属制度(2023年4月開始)
制度の概要:
・相続した不要な土地を、一定条件を満たせば国に引き渡せる制度
・境界確定・建物や残置物の撤去・地目制限などの厳しい審査がある
対象となる土地:
・山林・原野・宅地・農地など(建物やゴミが一切ないことが必須)
・今後使用予定が一切なく、売却も困難な土地
メリット:
・完全に国に引き取ってもらえるため、固定資産税や管理の負担から解放される
・譲渡先が見つからない場合の最終手段となり得る
デメリット:
・申請要件が厳しい(特に管理契約がある別荘地は対象外)
・筆数や内容によっては多額の費用が必要
費用の目安:
・境界確定測量費用:20万円〜50万円/筆
・残置物・建物の撤去費:30万円〜200万円以上(規模により変動)
・申請手数料:1万4,000円
・負担金:原則20万円/筆(地目によって異なる)
【制度3】所有者不明土地・建物管理制度(2024年施行)
制度の概要:
・相続未登記や共有状態で、名義人の一部が不明・連絡不能の場合
・裁判所に申し立てて「管理人」を選任し、管理・売却・処分が可能になる
対象となる不動産:
・共有名義の一部が音信不通
・死亡などで所在不明
・旧名義(明治・大正時代)などで現在の相続人が不明
メリット:
・共有者全員の同意がなくても売却・処分が可能になる
・調査・管理・処分を裁判所主導で進められる
デメリット:
・申立書類や所有者調査などの準備が煩雑
・申立から解決までに数ヶ月〜1年以上かかることもある
費用の目安:
・所有者調査(戸籍調査・住民票除票等):5万〜15万円程度
・裁判所への予納金・公告費:1万〜3万円
・選任された管理人への報酬:月5万円〜10万円(裁判所決定)
【制度比較まとめ】
以下のように、それぞれの制度には「前提条件」「得意な場面」「費用負担」に違いがあります。
● 相続登記の義務化
・全ての不動産に必須の「出発点」
・今後の処分・制度活用の前提となる
・比較的早く低コストで実行可能
● 国庫帰属制度
・「どうしても処分できない土地」の最終手段
・要件は厳しいが、負担から完全に解放される
・境界確定や撤去費など、事前費用が高額になりがち
● 所有者不明土地
・管理制度・共有地や相続登記ができない状況の「突破口」
・裁判所主導で進められるが、準備や期間に注意が必要
・管理人の報酬など実務費用もかかる
第4部|まとめ・Q&A・判断チャート(負動産をどう手放すか)
■ 総まとめ|今すぐ行動すべき理由
負動産を「いつか手放せるだろう」と放置してしまうと、・年々かさむ固定資産税や管理費・法改正による過料や行政指導・子や孫への負担の先送りなど、負担もリスクも増す一方です。
特に2025年4月からは相続登記の義務化により、「相続を知ってから3年以内に登記をしなければ罰金(過料)」という時代が始まります。
■ よくある質問と解決のヒント(Q&A)
Q1:名義が親のままでも、処分ってできるの?
→ できません。まずは「相続登記」または「相続人申告登記」で名義を整理しましょう。
Q2:国に土地を引き取ってもらえるって本当?
→ 条件を満たせば「相続土地国庫帰属制度」で可能です。ただし、建物・ゴミ・管理契約がある場合などは不可です。
Q3:共有名義の土地、連絡のつかない人がいて動けない…
→ 裁判所で「所有者不明土地管理命令」を申し立てれば、管理人が処分まで対応可能です。
Q4:解体や撤去っていくらかかるの?
→ 一戸建ての解体:50〜150万円前後、残置物撤去:10〜50万円以上が相場です。複数業者から見積をとって検討するのが確実です。
Q5:費用をかけても価値がない土地はどうすれば?
→ 譲渡・引取り・国庫帰属など「費用と効果」を比較し、最も損の少ない手段を選びましょう。
■ 自分に合った制度はどれ?判断フローチャート
【STEP 1】
不動産の名義はどうなっているか
→ 自分に名義がない場合 → 相続登記または申告登記が必要
→ 自分が登記済み → STEP 2へ
【STEP 2】
建物・残置物・ゴミがあるか
→ ある → 撤去が必要(国庫帰属制度は不可)
→ ない → STEP 3へ
【STEP 3】
譲渡・売却先が見つかるか
→ ある → 通常の売買や無償譲渡を検討
→ ない → STEP 4へ
【STEP 4】
制度の要件に合致しているか
→ 管理契約・傾斜・隣地越境など問題なし → 国庫帰属制度へ
→ 要件に合わない・複雑な共有 → 所有者不明土地管理制度を検討
■ 行動チェックリスト(今すぐ確認すべき項目)
□ 固定資産税の納付先・評価額を確認したか
□ 登記簿謄本で名義を調べたか
□ 建物・ゴミ・残置物が残っていないか
□ 他の相続人・共有者との連絡は取れるか
□ 市場価格(売却可能性)を不動産会社に確認したか
□ 各制度の要件と費用感を把握しているか
■ おわりに
負動産の問題に正面から向き合うのは、勇気のいることです。ですが、一歩踏み出すことで未来の負担は大きく変わります。
誰かに任せたまま、または放置したままでは、固定資産税・管理責任・将来の訴訟リスクなどが静かに積み重なっていくだけです。
本記事を読んだ今が、行動のタイミングです。「名義整理」「解体の検討」「制度の活用」など、できることから始めてみましょう。