【山林版】相続土地国庫帰属制度の要件・費用・手続き完全ガイド
- 一般社団法人日本不動産管財

- 9月19日
- 読了時間: 11分
更新日:10月20日
相続した山林の管理に困っていませんか?「遠方で管理できない」「固定資産税の負担が重い」「売却先が見つからない」といった悩みを抱える方に朗報です。
2023年4月27日から開始された相続土地国庫帰属制度により、一定の要件を満たせば相続した山林を国に引き取ってもらうことが可能になりました。本記事では、制度の概要から具体的な手続き、費用まで、山林所有者が知っておくべき全ての情報を詳しく解説します。
目次
相続土地国庫帰属制度とは
山林が対象となる理由と背景
制度を利用できる人・できない人
山林の国庫帰属要件
費用詳細:審査手数料と負担金
手続きの全手順
必要書類チェックリスト
よくある質問と回答
他の処分方法との比較
まとめ
相続土地国庫帰属制度とは
制度の概要
相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈によって取得した土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度です。令和5年(2023年)4月27日に施行された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」に基づいています。
制度創設の背景
少子高齢化の進展により、以下のような問題が深刻化していました:
相続した土地を管理しきれない所有者の増加
利用予定のない遠方の土地の放置
将来の「所有者不明土地」問題の予防
特に山林については、都市部に住む相続人にとって管理が困難で、放置されるケースが多発。国としても、適切な管理のもとで土地の有効活用を図る必要があったのです。
制度の特徴
対象土地: 宅地、田畑、森林(山林・原野)など地目による制限なし 利用者: 相続または遺贈により土地を取得した人 費用: 審査手数料(1筆14,000円)+ 負担金(土地の種類・面積による) 期間: 申請から承認まで半年~1年程度
山林が対象となる理由と背景
なぜ山林が重要なのか
山林が相続土地国庫帰属制度の対象となっている理由は明確です:
1. 管理の困難さ
都市部在住の相続人には現地管理が困難
専門知識を要する森林管理
境界確定の複雑さ
2. 売却の困難さ
買い手が限定的
アクセスの悪い立地条件
災害リスクへの懸念
3. 社会問題化の防止
放置による環境悪化の防止
所有者不明土地の発生予防
適切な森林保全の実現
原野商法被害地も対象
1970~80年代に被害が多発した原野商法によって取得された土地であっても、制度の要件を満たしていれば承認申請が可能です。これは多くの被害者にとって朗報といえるでしょう。
制度を利用できる人・できない人
✅ 利用できる人
基本要件
相続または遺贈により山林の所有権を取得した人
共有持分を相続した場合は、共有者全員が共同申請
具体例
父親から山林を相続した長男
祖父の遺言により山林を遺贈された孫
兄弟3人が共同相続した山林(3人全員で申請)
❌ 利用できない人
対象外となるケース
売買により山林を取得した人
贈与により取得した人
相続人のうち一部の人のみでの申請(共有の場合)
注意点: 共有者の中に相続・遺贈で取得した人がいれば、全共有者が共同申請することで制度利用が可能です。
山林の国庫帰属要件
山林を国庫に帰属させるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
🚫 申請できない土地(却下事由)
1. 建物がある土地
不動産登記規則111条に定める建物が存在
ただし、廃屋等の建物に該当しないものは除く
2. 担保権や使用収益権が設定されている土地
抵当権等の担保権
地上権、地役権、賃貸借権
山林特有: 入会権、森林経営委託契約等も含む
3. 通路など他人の利用が予定されている土地
通路として使われている土地
水道用地、用悪水路、ため池
4. 土壌汚染されている土地
土壌汚染対策法に規定する特定有害物質による汚染
5. 境界が明らかでない土地
隣接地との境界が不明確
山林の場合: 完全な測量は不要だが、境界が分かる必要
🚫 承認されない土地(不承認事由)
山林特有の不承認事由
A. 適切な森林管理がされていない山林
間伐が実施されていない人工林
標準伐期齢に達していない天然林
国による整備が必要と判断される森林
B. 管理・処分に過分な費用がかかる土地
急峻な傾斜地で管理困難
アクセス道路がない
その他、通常の管理を超える費用が必要
✅ 境界確定の判断基準
山林の境界については、以下の2点で判断されます:
隣接地との境界がおおむね明らかか
完全な測量図は不要
概ねの境界が把握できること
境界標識や自然地形による区分
境界杭や境界石の存在
尾根、谷、道路等による自然境界
費用詳細:審査手数料と負担金
相続土地国庫帰属制度の利用には、2つの費用が発生します。
📄 審査手数料(申請時)
金額: 1筆あたり14,000円 支払方法: 申請書に収入印紙を貼付 返還: 却下・不承認の場合も返還なし
計算例
1筆の山林: 14,000円
隣接する3筆の山林: 14,000円 × 3筆 = 42,000円
💰 負担金(承認後)
負担金は10年分の土地管理費相当額として算定されます。
森林(山林)の負担金計算
森林の負担金は固定額+面積に応じた計算の組み合わせです。面積区分ごとに異なる単価と基準額が設定されています。
森林の負担金計算式(法務省公式)
面積区分 | 計算式 |
750㎡以下 | 地積×59円+210,000円 |
750㎡超~1,500㎡以下 | 地積×24円+237,000円 |
1,500㎡超~3,000㎡以下 | 地積×17円+248,000円 |
3,000㎡超~6,000㎡以下 | 地積×12円+263,000円 |
6,000㎡超~12,000㎡以下 | 地積×8円+287,000円 |
12,000㎡超 | 地積×6円+311,000円 |
実際の負担金計算例
例1: 1,000㎡(0.1ha)の山林
750㎡超~1,500㎡以下の区分に該当
1,000㎡ × 24円 + 237,000円 = 261,000円
例2: 5,000㎡(0.5ha)の山林
3,000㎡超~6,000㎡以下の区分に該当
5,000㎡ × 12円 + 263,000円 = 323,000円
例3: 10,000㎡(1ha)の山林
6,000㎡超~12,000㎡以下の区分に該当
10,000㎡ × 8円 + 287,000円 = 367,000円
例4: 30,000㎡(3ha)の山林
12,000㎡超の区分に該当
30,000㎡ × 6円 + 311,000円 = 491,000円
例5: 500㎡の小規模山林
750㎡以下の区分に該当
500㎡ × 59円 + 210,000円 = 239,500円
例6: 100,000㎡(10ha)の大規模山林
12,000㎡超の区分に該当
100,000㎡ × 6円 + 311,000円 = 911,000円
💡 計算のポイント
面積が大きいほど単価は下がる: 大規模山林ほど㎡あたり負担が軽減
基準額+面積比例: 完全固定でも完全比例でもない合理的な設計
段階的負担軽減: 広い山林の所有者により配慮した制度設計
🏷️ その他の地目の負担金
原野: 20万円(面積に関係なく一律)
市街化区域外の宅地: 20万円
農地: 面積に応じて計算(農用地区域内は面積比例)
💡 負担金軽減の特例
隣接土地の合算特例
隣接する同じ種目の土地は合算可能
複数筆でも負担金は1筆分として計算
適用例
隣接する2筆の原野(各20万円)→ 合算により20万円
隣接する山林2筆 → 面積を合算して1回分の負担金
手続きの全手順
Step 1: 事前相談(必須)
相談先: 法務局・地方法務局(本局)
方法: 対面相談または電話相談(要予約)
時間: 1回30分
費用: 無料
相談に必要な書類
相続土地国庫帰属相談票
土地の状況チェックシート
土地の状況がわかる資料・写真
予約方法: 法務局手続案内予約サービスを利用
Step 2: 承認申請書の作成・提出
提出先: 土地所在地を管轄する法務局・地方法務局(本局) 注意: 相談は近隣法務局でも可能だが、申請は管轄法務局のみ
Step 3: 審査(書面審査・実地調査)
期間: 半年~1年程度 内容:
書面による要件確認
必要に応じて現地調査
関係者からの事情聴取
追加資料の提出要求
Step 4: 承認通知・負担金納付
承認の場合:
承認通知書の受領
納入告知書の受領
30日以内に負担金納付
不承認の場合:
理由書の受領
審査手数料は返還されない
Step 5: 所有権移転
負担金納付完了時: 自動的に所有権が国に移転
登記: 国が職権で実施(申請者の手続き不要)
必要書類チェックリスト
📋 基本書類
[ ] 承認申請書(法務省指定様式)
[ ] 登記事項証明書(土地・建物)
[ ] 登記済証または登記識別情報通知
[ ] 固定資産課税明細書(最新年度分)
[ ] 相続関係を証する書面(戸籍謄本等)
🗾 土地関係書類
[ ] 公図の写し
[ ] 地積測量図(存在する場合)
[ ] 土地の現況写真(境界を含む)
[ ] 案内図(土地の所在が分かるもの)
🌲 山林特有書類
[ ] 森林計画関連書類(森林計画対象の場合)
[ ] 伐採届出書の控え(過去の伐採がある場合)
[ ] 境界確認書(隣接地所有者との合意がある場合)
[ ] 立木評価証明書(森林組合発行、ある場合)
📄 その他状況に応じて必要な書類
[ ] 農地転用許可書(農地から山林への転用歴がある場合)
[ ] 開発行為許可書(開発許可を受けた土地の場合)
[ ] 建物滅失登記済証(建物があった場合)
[ ] 土壌汚染調査報告書(汚染の可能性がある場合)
よくある質問と回答
Q1: 原野商法で購入した土地でも利用できますか?
A: はい、利用可能です。購入方法は問わず、相続または遺贈により取得していることが要件です。1970〜80年代の原野商法被害地も、制度要件を満たせば承認申請できます。
Q2: 山林の境界がはっきりしないのですが大丈夫ですか?
A: 完全な測量は不要です。隣接地との境界が「おおむね明らか」であれば申請可能です。境界杭や自然地形(尾根・谷・道路等)による区分で判断されます。
Q3: 間伐をしていない人工林は承認されませんか?
A: 間伐の実施状況は重要な判断要素です。適切な森林管理がされていない場合は不承認となる可能性があります。事前相談で確認することをお勧めします。
Q4: 複数の相続人がいる場合はどうすればいいですか?
A: 相続人全員が共同で申請する必要があります。一部の相続人のみでの申請はできません。事前に相続人全員の同意を得ておくことが重要です。
Q5: 申請が不承認になった場合、再申請はできますか?
A: 可能ですが、最初から手続きをやり直す必要があります。審査手数料も再度必要になります。不承認理由を解決してから再申請しましょう。
Q6: 負担金を支払えない場合はどうなりますか?
A: 30日以内に納付しないと承認が失効します。同じ土地について再度申請したい場合は、最初から手続きをやり直す必要があります。
Q7: 保安林も対象になりますか?
A: 保安林の指定を受けている山林は、伐採制限等により通常の管理費用を超える費用がかかる可能性があり、不承認となる場合があります。事前相談で確認が必要です。
Q8: 共有持分だけでも申請できますか?
A: 共有者全員が共同で申請する必要があります。ただし、共有者の一部が相続・遺贈で持分を取得していれば、全共有者が共同申請することで制度利用が可能です。
他の処分方法との比較
山林の処分には複数の選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを比較してみましょう。
📊 処分方法別比較表
方法 | 費用 | 期間 | 成功率 | メリット | デメリット |
国庫帰属制度 | 審査手数料1.4万円 + 負担金20万円~ | 6ヶ月~1年 | 要件次第 | 確実な処分 国による管理 | 厳格な要件 高額な費用 |
山林買取業者 | 無料~数十万円 | 1ヶ月~3ヶ月 | 高い | 迅速な処分 要件が緩い | 業者の信頼性 買取価格が低い |
自治体寄付 | 無料 | 3ヶ月~6ヶ月 | 低い | 費用負担なし | 受入条件が厳格 ほぼ不可能 |
個人売買 | 仲介手数料等 | 不明 | 極めて低い | 売却益の可能性 | 買い手が見つからない |
🎯 こんな人におすすめ
国庫帰属制度が向いている人
確実に処分したい
多少費用をかけても良い
制度要件を満たしている
他の方法で処分できなかった
山林買取業者が向いている人
できるだけ早く処分したい
費用を抑えたい
制度要件を満たさない
手続きを任せたい
💡 併用戦略
まず国庫帰属制度の事前相談
要件を満たさない場合は買取業者に相談
費用対効果を比較して最適な方法を選択
まとめ
相続土地国庫帰属制度は、管理に困る山林を合法的に手放すことができる画期的な制度です。しかし、以下の点を十分理解した上で利用を検討しましょう。
✅ 制度の要点
対象者: 相続・遺贈により山林を取得した人
費用: 審査手数料14,000円 + 負担金(面積に応じて)
期間: 申請から承認まで半年~1年
要件: 境界明確、適切な森林管理、担保権設定なし等
🚨 注意すべきポイント
厳格な要件: すべての要件を満たす必要がある
高額な負担金: 広い山林ほど負担金が高額
時間がかかる: 半年以上の審査期間が必要
共有者全員の同意: 一人でも反対すると利用不可
🎯 成功のコツ
事前相談を活用: まずは法務局で相談
書類を完璧に準備: 不備があると審査が長期化
代替案も検討: 買取業者等の他の選択肢も並行検討
専門家の活用: 司法書士等への依頼も検討
📞 次のステップ
山林の処分でお困りの方は、以下の行動をおすすめします:
法務局への事前相談予約
必要書類の収集開始
他の処分方法も並行検討
相続人間での合意形成
相続土地国庫帰属制度は、適切に活用すれば山林の管理負担から解放される有効な手段です。しかし、制度の特性を十分理解し、他の選択肢とも比較検討した上で、最適な判断を行うことが重要です。
専門家のアドバイスを受けながら、あなたに最適な解決策を見つけましょう。
関連情報
この記事は2025年1月時点の法令・制度に基づいて作成しています。最新の情報は法務省ホームページでご確認ください。
