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土地の前所有者は責任を問われるのか?

  • 執筆者の写真: 一般社団法人日本不動産管財
    一般社団法人日本不動産管財
  • 7月10日
  • 読了時間: 4分

更新日:10月20日

熱海の土砂災害をもとに考える所有者責任

2021年7月、静岡県熱海市で発生した大規模な土石流災害は、土地の「前所有者」にまで民事・刑事の責任が及ぶかどうかという重要な法的問題を投げかけました。この記事では、事件の概要を整理した上で、土地をすでに手放した人でも責任を問われる可能性があるのか、民法や判例をもとにわかりやすく解説します。



熱海の土砂災害とは何だったのか?

静岡県熱海市の伊豆山地区で発生した土砂災害は、死者・行方不明者を出す大惨事となりました。原因の一つとして指摘されたのが、山林の造成による「盛土」です。

この盛土は、2000年代前半に土地の所有者が開発目的で搬入・堆積させたものでしたが、開発は途中で放棄され、長らく放置されていたといわれています。そして、災害発生時にはその土地は別人に所有権が移転していた状態でした。

この事件を受けて、「土地をすでに売却した前所有者にまで責任は及ぶのか?」という問題が注目されました。



土地前所有者の法的責任は問えるのか?

民法第717条の規定

土地や工作物の設置・管理に関する基本ルールを定めた民法第717条では、以下のように規定されています。

土地の工作物に瑕疵(かし=欠陥)があり、他人に損害を与えたときは、現所有者が原則として責任を負う。

つまり、基本的には現在の所有者が責任主体となります。

ただし、「瑕疵の存在を知りながら前所有者が何ら対処せずに売却した」などの事情がある場合は、過失責任を問われる余地があります。



熱海災害では前所有者に刑事責任が問われた

注目すべきは、熱海の事例では前所有者(盛土を行った人物)に対し、業務上過失致死傷罪の疑いで逮捕・起訴されたことです。

なぜ刑事責任が問われたのか?

  • 盛土は許可なく行われた疑いがあった

  • 安全管理措置が一切取られていなかった

  • 売却後も災害発生までに相当な時間が経っておらず、危険性を認識していた可能性が高い

このような状況から、「当時の行為が結果的に多数の死傷者を生じさせた」として、刑事責任(過失犯)が追及されたのです。



民事責任も問われる可能性がある

被災者側が損害賠償を求めて訴訟を起こす場合、現在の所有者だけでなく、盛土を行った前所有者にも賠償を請求することは可能です。

裁判所は以下のような点を考慮して判断します:

  • 危険な盛土が災害の原因となったか

  • 前所有者がその危険性をどの程度認識していたか

  • 売却後の管理状態と災害との因果関係

つまり、「すでに手放したから責任はない」とは言い切れないのが実情です。



土地を手放す前に必要な注意点

熱海の事例を教訓として、土地を売却する前に以下の点を確認することが重要です。

1. 盛土・埋設物の有無を確認

造成地や埋設物があることを認識している場合、その安全性と法令適合性を事前に確認しておく必要があります。

2. 適切な説明を行う

売買時に、土地の状態(盛土・残置物・崩落リスクなど)を知りうる範囲内で正確に開示することが、後のトラブル回避につながります。

3. 土地に責任が残るという認識を持つ

たとえ所有権を放棄しても、過去の危険な行為に基づく責任は消えない可能性があることを理解しておくべきです。



管理契約がある別荘地での特別な注意点

別荘地の場合には管理組合や管理会社との間で管理契約が結ばれているケースが多く、管理費や修繕積立金などの支払い義務が継続的に発生します。新所有者がこれらを適切に支払わない場合、前所有者に対して未払分の請求が及ぶ可能性があります。そのため、別荘地の売却では、購入者が継続的に管理費を支払える経済力と責任感を持っているかを慎重に見極めることが、将来的なリスク回避につながります。



まとめ:土地を手放しても責任が残るケースがある

  • 原則、責任は現所有者にある

  • しかし、前所有者が造成や盛土など危険な行為を行っていた場合、民事・刑事の両面で責任を問われる可能性がある

  • 熱海の土砂災害はその典型例であり、前所有者への社会的・法的責任追及がなされた

「土地を売れば終わり」ではなく、「過去の行為には未来の責任が伴う」ことを意識する

  • 別荘地の売却では、購入者を慎重に見極める必要があります。

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