山林の自治体寄付はなぜ断られる?受け入れ率5%以下の現実と成功への道
- 一般社団法人日本不動産管財

- 2023年7月20日
- 読了時間: 13分
更新日:10月20日
「相続した山林を自治体に寄付したいのに断られた」「どの自治体も受け入れてくれない」そんな悩みを抱えていませんか?実は、山林の自治体への寄付は受け入れ率5%以下と非常に困難なのが現実です。
この記事では、なぜ自治体が山林の寄付を受け入れないのか、どうすれば受け入れてもらえるのか、そして代替案まで、実例を交えて徹底解説します。
目次
山林寄付が断られる5つの根本的理由
自治体が受け入れる山林の条件
寄付を成功させる7つの実践ステップ
自治体寄付が無理な場合の5つの代替案
国庫帰属制度の活用方法
実際の成功事例と失敗事例
よくある質問(FAQ)
1. 山林寄付が断られる5つの根本的理由
理由1:自治体の財政負担が大きすぎる
最大の理由は「維持管理コスト」です。
自治体が山林を受け入れると、以下の費用が毎年発生します:
費用項目 | 年間コスト(1ヘクタール) |
巡回・点検 | 30,000〜50,000円 |
下草刈り・間伐 | 50,000〜150,000円 |
林道維持管理 | 30,000〜100,000円 |
災害対応費(平均) | 50,000〜200,000円 |
合計 | 160,000〜500,000円 |
具体例: ある地方自治体では、過去に寄付を受けた10ヘクタールの山林の管理に年間400万円を支出。木材販売収入は年間20万円のみで、毎年380万円の赤字を計上しています。
このような実態から、多くの自治体が「寄付受け入れ凍結」の方針を採用しています。
理由2:公共利用の見込みがない
自治体は原則として「公共の利益」がある土地しか受け入れません。
受け入れられない典型例:
市街地から遠く、公園や施設に転用不可
道路がなく、アクセスできない
急傾斜地で利用価値がない
面積が小さく断片的(1ヘクタール以下)
既に十分な山林を自治体が保有している
2024年の調査結果: 全国1,741市町村のうち、無条件で山林寄付を受け入れている自治体はわずか37自治体(2.1%)のみ。
理由3:境界や権利関係が不明確
自治体が最も警戒する問題です。
境界が不明確な山林を受け入れると:
隣接地所有者との紛争リスク
測量費用(50〜200万円)を自治体が負担
係争に巻き込まれる可能性
実例: A市が善意で寄付を受けた山林が、後に隣接地所有者から「境界が違う」と訴訟を起こされ、測量費用150万円+弁護士費用200万円を負担する事態に。
理由4:環境汚染や不法投棄のリスク
過去に産業廃棄物が不法投棄されていた場合、その撤去費用は土地所有者の責任となります。
恐ろしい事例: B町が寄付を受けた山林から、後に建設廃材と化学物質の不法投棄が発見。撤去費用2,300万円を自治体が負担することに。
このため、多くの自治体は以下を条件とします:
土壌汚染調査の実施(費用:50〜150万円)
不法投棄がないことの証明
過去の土地利用履歴の開示
理由5:既に多数の寄付申し込みがある
「寄付したい人」は全国に数十万人います。
林野庁の調査によると:
相続した山林を「手放したい」:約56万人
実際に寄付が成立:年間約2,000件
成功率:わずか0.4%以下
特に高齢化が進む地方自治体では、申し込みが殺到しており、厳格な審査基準を設けています。
2. 自治体が受け入れる山林の条件
それでも受け入れてもらえる山林には共通点があります。
条件1:公共利用の明確な計画がある
受け入れられやすい用途:
公園・レクリエーション施設
防災林・保安林としての機能
水源涵養林
教育・環境学習の場
市街地に近い緩衝緑地
成功事例: C市は、市街地に隣接する3ヘクタールの山林を寄付で受け入れ、市民の森として整備。年間3,000人が利用する人気スポットに。
条件2:管理コストが最小限
好条件の山林:
面積が適度(2〜5ヘクタール)
平坦または緩傾斜
道路に接している
健全な樹木が生育
周辺に民家がない(災害リスクが低い)
条件3:境界が明確で権利関係が整理されている
必須条件:
境界杭がすべて確認できる
測量図が作成済み(費用は寄付者負担)
抵当権等の権利関係がない
隣接地所有者の同意書がある
条件4:寄付者が初期費用を負担する
多くの自治体が求める費用負担:
項目 | 寄付者負担額 |
測量費用 | 50〜200万円 |
境界確定費用 | 30〜100万円 |
所有権移転登記費用 | 10〜30万円 |
土壌調査(必要時) | 50〜150万円 |
合計 | 140〜480万円 |
重要ポイント: 寄付なのに数百万円の費用が必要という矛盾が、寄付を困難にしています。
条件5:政治的・戦略的価値がある
現実的な話として、以下の場合は受け入れられやすい傾向があります:
地元の有力者や議員からの推薦
自治体の総合計画に合致
国や県の補助金活用が見込める
メディアで好意的に取り上げられる可能性
3. 寄付を成功させる7つの実践ステップ
それでも自治体への寄付を目指す方のために、成功率を高める方法を解説します。
ステップ1:複数の自治体に打診する
戦略的アプローチ:
山林所在地の自治体(最優先)
隣接する自治体
広域連合や都道府県
自治体の外郭団体(森林公社等)
一箇所に断られても諦めず、最低5箇所には相談しましょう。
ステップ2:自治体の受け入れ方針を事前調査
確認すべきポイント:
過去の寄付受け入れ実績
寄付受け入れ要綱の有無
担当部署(財産管理課、林務課等)
議会での寄付審議状況
多くの自治体は「寄付受け入れ基準」を内部で定めています。情報公開請求で入手できる場合もあります。
ステップ3:公共利用の提案書を作成
効果的な提案内容:
具体的な活用案(防災林、環境教育の場等)
地域住民へのメリット
維持管理計画(できる範囲で)
国や県の補助金活用の可能性
単に「受け取ってください」ではなく、「こんな風に活用できます」という提案が重要です。
ステップ4:境界を明確にする(最重要)
投資する価値がある費用: 測量費用50〜200万円を惜しまない方が、結果的に成功率が上がります。
手順:
土地家屋調査士に測量依頼
隣接地所有者立ち会いで境界確認
境界確定図作成
境界標設置
ステップ5:地元議員や有力者に相談
現実的な話として、議員や有力者の後押しがあると受け入れられやすくなります。
相談先:
地元の市町村議員
県議会議員
自治会長や有力者
森林組合の理事
政治的配慮も成功の要素であることを認識しましょう。
ステップ6:寄付附条件を柔軟にする
受け入れられやすい条件設定:
使途の制限をしない
売却や転用を認める
寄付者名の公表を求めない
感謝状等の形式を求めない
「こう使ってほしい」という条件は最小限に。
ステップ7:長期戦を覚悟する
現実的なスケジュール:
相談開始〜内諾:3〜12ヶ月
測量・境界確定:3〜6ヶ月
議会承認:3〜6ヶ月
所有権移転完了:1〜3ヶ月
合計:1〜2年以上
急いでも進まないのが自治体の現実です。
4. 自治体寄付が無理な場合の5つの代替案
代替案1:国庫帰属制度の活用(2023年開始)
最も現実的な選択肢です。
条件を満たせば、国に土地を引き取ってもらえる新制度。
基本情報:
開始:2023年4月27日
管轄:法務局
審査手数料:14,000円
負担金:面積に応じて(山林は面積区分による定額制)
負担金の目安:
面積 | 負担金 |
〜200㎡ | 約20万円 |
〜500㎡ | 約30万円 |
〜1,000㎡ | 約50万円 |
〜2,000㎡ | 約70万円 |
〜5,000㎡ | 約110万円 |
1ヘクタール超 | 約200万円〜 |
申請が却下される条件:
建物がある
担保権が設定されている
境界が不明確
土壌汚染がある
管理に過大な費用がかかる
崖地である(傾斜度30度以上など)
2024年の実績:
申請件数:約2,500件
承認件数:約800件(承認率32%)
山林の承認率:約25%
自治体寄付よりは成功率が高い選択肢です。
代替案2:公益法人・NPO法人への寄付
受け入れ可能性がある団体:
環境保護系
公益財団法人 日本自然保護協会
公益財団法人 日本野鳥の会
認定NPO法人 トラスト地
各地域のナショナルトラスト団体
条件:
生態系保全の価値がある
環境教育に活用できる
アクセスが可能
維持管理可能な規模
注意点: NPO法人も財政基盤が弱いため、受け入れ可能な物件は限定的です。
代替案3:隣接地所有者への譲渡
最も早く手放せる可能性が高い方法
隣接地所有者にとっては:
土地が一体化してまとまる
境界トラブルが減る
事業拡大の可能性
アプローチ方法:
登記簿で隣接地所有者を特定
手紙で譲渡の意思を伝える
無償〜低価格での譲渡を提案
所有権移転費用は交渉次第
成功事例: 隣接する林業会社に「無償+測量費用負担」で10ヘクタールの山林を譲渡成功。測量費用120万円のみで手放せた。
代替案4:森林組合への相談
地域の森林組合が仲介してくれる場合があります。
森林組合ができること:
買い手の紹介
森林経営管理制度への参加仲介
森林バンクへの登録
境界明確化事業の活用支援
費用:相談無料〜成功報酬10〜20%
代替案5:相続放棄(最終手段)
相続前であれば選択可能
相続放棄の条件:
相続開始を知ってから3ヶ月以内
家庭裁判所に申述
すべての相続財産が対象(選択不可)
費用:約1〜3万円
注意点: 相続放棄後も、次の管理者が決まるまでは管理義務が継続します(民法940条)。完全に責任から逃れられるわけではありません。
5. 国庫帰属制度の活用方法(詳細)
2023年開始の新制度を使いこなすポイントを解説します。
申請の流れ
ステップ1:事前相談(推奨) 最寄りの法務局に電話で相談
要件を満たすか確認
必要書類の確認
ステップ2:申請書類の準備
必要書類:
申請書
土地の位置を示す図面
土地の形状を示す図面
登記事項証明書
公図
境界確定図(ある場合)
写真(複数枚)
その他証明書類
ステップ3:審査手数料の納付 14,000円/筆
ステップ4:法務局による審査
期間:6ヶ月〜1年
現地調査あり
追加資料請求の可能性
ステップ5:承認通知 承認された場合、負担金の納付書が送付される
ステップ6:負担金納付 納付期限:通知から30日以内
ステップ7:所有権移転 負担金納付後、国に所有権が移転
承認されやすくするポイント
境界を明確にしておく
測量図があると有利
隣接地所有者の同意があればベター
写真を多く撮影
土地の全体像
アクセス路
周辺状況
問題がないことの証明
管理履歴の記録
定期的に巡回していた記録
草刈り等の管理記録
トラブルがなかった証明
事前に不法投棄を撤去
少しでもゴミがあれば撤去
クリーンな状態で申請
6. 実際の成功事例と失敗事例
成功事例1:公園予定地として寄付成功
条件:
所在地:市街地から車で15分
面積:3ヘクタール
地形:緩傾斜
樹種:桜、雑木林
成功要因:
市の総合計画で公園整備が予定されていた
地元自治会が活用を強く要望
寄付者が測量費用120万円を負担
議員が議会で積極的に推進
結果: 申請から1年半で寄付成立。現在は「○○市民の森」として整備中。
成功事例2:国庫帰属制度で承認
条件:
所在地:山間部
面積:8,000㎡
地形:比較的平坦
管理状態:良好
成功要因:
境界が明確(測量図あり)
不法投棄なし
アクセス可能
写真と資料を充実させた
費用:
審査手数料:14,000円
負担金:約120万円
合計:約123万円で手放せた
失敗事例1:自治体に断られ続けた
条件:
所在地:山奥
面積:20ヘクタール
地形:急傾斜
問題:境界不明、道路なし
経緯:
5つの自治体に打診→すべて拒否
理由:「公共利用の見込みなし」「管理不可能」
NPO法人にも打診→拒否
国庫帰属制度→「傾斜地」で却下
現状: 年間約30万円の維持費を負担し続けている
失敗事例2:初期費用が高額すぎて断念
経緯:
D市が「測量と境界確定が条件」と提示
見積もり:測量費180万円+境界確定費80万円
合計260万円が必要
予算がなく断念
教訓: 寄付でも数百万円の初期費用が必要な現実。
7. よくある質問(FAQ)
Q1:山林の寄付は無料でできますか?
A: 寄付者が負担する費用が発生する場合があります。
主な費用:
測量費用:50〜200万円
境界確定費用:30〜100万円
所有権移転登記費用:10〜30万円
土壌調査(必要時):50〜150万円
合計:140〜480万円程度
「寄付なのに費用がかかる」という矛盾が、多くの人を困惑させています。
Q2:寄付を断られた場合、どうすればいいですか?
A: 以下の選択肢を順番に検討してください。
他の自治体に打診(成功率5%以下)
国庫帰属制度を利用(成功率25%程度)
隣接地所有者に譲渡(成功率20〜30%)
NPO法人に相談(成功率10%以下)
森林経営管理制度に参加(市町村に管理委託)
売却を試みる(時間がかかるが可能性あり)
相続放棄(相続前のみ、最終手段)
Q3:寄付した山林に税金はかかりますか?
A: 基本的に非課税ですが、注意点があります。
所得税(譲渡所得税):
公共団体への寄付→非課税
要件:国税庁の承認を受けた場合
贈与税:
通常は非課税
ただし、受贈者(自治体)が負担すべき性質
固定資産税:
所有権移転までは負担継続
登記完了後は不要
税理士への相談を推奨します。
Q4:相続前と相続後、どちらが寄付しやすいですか?
A: 相続前(生前)の方が選択肢が多いです。
相続前のメリット:
相続放棄という選択肢がある
被相続人自身が交渉できる
時間的余裕がある
相続後のデメリット:
相続登記が必要(費用発生)
相続人全員の同意が必要
固定資産税の負担が始まる
可能であれば生前に対策を。
Q5:自治体が将来、寄付を受け入れてくれる可能性はありますか?
A: 残念ながら、今後さらに厳しくなる見込みです。
理由:
自治体財政の悪化
既に保有する山林の管理負担増
人口減少と職員削減
気候変動による災害リスク増
例外:
再生可能エネルギー適地
メガソーラー等の誘致が見込める
観光資源としての価値がある
希少な好条件の山林以外は、今後も受け入れは困難でしょう。
Q6:森林経営管理制度とは何ですか?
A: 市町村が仲介して、山林を意欲ある林業経営者につなぐ制度です。
2019年開始の新制度:
所有者が市町村に経営管理を委託
市町村が適切な経営者を探す
経営者が見つからない場合は市町村が管理
所有権は移転しない(寄付ではない)
メリット:
管理の手間から解放
間伐等の費用負担が軽減
木材販売収入の可能性
デメリット:
所有権は残る(固定資産税は継続)
経営者が見つからないケースも多い
市町村の林務課に相談してください。
Q7:山林を持ち続けるリスクは何ですか?
A: 以下のリスクがあります。
損害賠償責任
倒木で他人の財産を損壊:数百万円
土砂崩れで被害:数千万円
不法投棄の撤去命令:数十〜数百万円
管理責任の追及
適切な管理をしていないと責任を問われる
近隣住民とのトラブル
費用負担の継続
固定資産税
管理費用
災害時の復旧費用
相続問題の複雑化
次世代への負担の先送り
共有化による意思決定の困難化
早めの対処が重要です。
まとめ:現実的な選択肢を見極める
厳しい現実
自治体寄付の成功率:5%以下
初期費用:140〜480万円必要
審査期間:1〜2年以上
「タダで引き取ってほしい」という希望は、ほぼ実現不可能なのが現実です。
現実的な対応策
優先順位:
1位:国庫帰属制度(成功率25%※申請要件を満たしている場合)
費用:15〜200万円程度
期間:6ヶ月〜1年
まず第一に検討すべき
2位:隣接地所有者への譲渡(成功率20〜30%※好条件の山林で且つ、隣接所有者の連絡先が分かる場合)
費用:0〜150万円
期間:3ヶ月〜1年
比較的早く解決
3位:森林経営管理制度への参加
所有権は残るが管理負担軽減
費用:基本無料
期間:数ヶ月〜
4位:売却の試み(成功率10〜20%※好条件の山林の場合)
時間はかかるが可能性あり
不動産会社・森林組合に相談
5位:自治体寄付への挑戦(成功率5%以下)
好条件の山林のみ
長期戦を覚悟
最も重要なこと
早めの行動が選択肢を増やします。
相続前なら相続放棄という選択肢
境界が不明になる前に測量
自治体の方針変更前に打診
健康なうちに対策
「いつか何とかなる」という放置が、最も高くつきます。
