山林の固定資産税が安い理由と評価基準を徹底解説
- 一般社団法人日本不動産管財
- 2024年1月15日
- 読了時間: 7分
更新日:10月3日
山林を所有している、または購入を検討している方にとって、固定資産税の負担は重要な関心事です。実は山林の固定資産税は、宅地や農地と比べて大幅に安く設定されています。本記事では、なぜ山林の固定資産税が安いのか、その評価基準はどうなっているのかを、具体例を交えながら詳しく解説します。
山林の固定資産税は本当に安いのか?具体的な比較
まず、山林の固定資産税が実際にどれくらい安いのか、他の地目と比較してみましょう。
固定資産税の計算式: 固定資産税額 = 固定資産税評価額 × 1.4%(標準税率)
地目別の評価額比較(1平方メートルあたりの目安)
宅地:10万円〜50万円(都市部)
農地:100円〜5,000円
山林:10円〜500円
例えば、1,000平方メートル(約300坪)の土地を所有している場合:
宅地の場合: 評価額2,000万円 × 1.4% = 年間28万円
農地の場合: 評価額100万円 × 1.4% = 年間1万4,000円
山林の場合: 評価額10万円 × 1.4% = 年間1,400円
このように、山林の固定資産税は他の地目と比べて圧倒的に低い水準となっています。
山林の固定資産税が安い5つの理由
1. 経済的収益性の低さ
山林は宅地や商業地と異なり、直接的な収益を生み出しにくい特性があります。
収益化までの期間が長い:
杉やヒノキなどの木材は伐採可能になるまで50年〜80年かかる
その間の維持管理コストがかかる
木材価格の変動リスクがある
この長期的な投資回収期間を考慮し、税負担が軽減されています。
2. 公益的機能の評価
山林は社会全体に対して重要な公益的機能を果たしています。
環境保全機能:
水源涵養:雨水を蓄え、河川の水量を安定させる
土砂災害防止:土壌の流出を防ぎ、災害を防ぐ
CO2吸収:地球温暖化対策に貢献
生物多様性の保全:野生動物の生息地として機能
これらの公益性を認め、税制面での優遇措置が講じられています。
3. 管理コストの高さ
山林の適切な管理には継続的なコストがかかります。
主な管理コスト:
下草刈り:年1〜2回必要
間伐作業:10年〜15年ごと
林道の維持管理
病虫害対策
獣害対策
これらのコストを考慮し、税負担を抑えることで所有者の管理意欲を維持する狙いがあります。
4. 立地条件の制約
多くの山林は以下のような制約を抱えています。
アクセスが困難(道路が未整備)
急傾斜地が多い
インフラ(電気・水道)が未整備
他の用途への転用が難しい
これらの制約により、土地としての利用価値が限定的であることが評価額に反映されています。
5. 森林保護政策との連動
国や自治体の森林保護政策の一環として、税制面での優遇措置が設けられています。
関連制度:
森林環境税の導入(2024年度から本格実施)
森林経営管理制度
保安林制度による減免措置
山林の固定資産税評価基準の詳細
評価方法の基本
山林の固定資産税評価額は、総務大臣が定める「固定資産評価基準」に基づいて決定されます。
評価の基本式: 評価額 = 標準地の価格 × 地積 × 補正率
標準地の選定と価格決定
各市町村は、地域内の山林から状況が類似する地域ごとに標準地を選定します。
標準地の価格決定要素:
地価公示価格との均衡
近隣の地価公示地との比較
ただし山林は公示地が少ないため、売買実例価格も参考
売買実例価格
過去の取引事例を収集
市場価格の7割程度を目安に評価
収益力の評価
立木の種類と樹齢
木材市場価格
伐採後の再生可能性
地目による分類
山林は詳細に以下のように分類されます。
純山林: 市街地から離れた山間部の山林。最も評価額が低い。
中間山林: 市街地に近い山林。純山林より評価額が高い。
市街地山林: 市街地内や近接する山林。宅地見込み地として評価されることもあり、評価額が高い。
保安林: 特別な保護対象となる山林。税制上の減免措置がある。
補正率の適用
標準地の価格に対して、個別の山林の特性に応じた補正率が適用されます。
主な補正要素:
接道状況:
公道に面している:補正なし
林道のみ:▲10〜30%
道路なし:▲30〜50%
傾斜度:
平坦地:補正なし
緩傾斜(15度未満):▲5〜10%
急傾斜(30度以上):▲20〜40%
地形・地質:
良好な土壌:補正なし
岩石地:▲20〜30%
湿地:▲10〜20%
樹木の状況:
良好な人工林:補正なし
天然林:▲10〜20%
未立木地:▲30〜50%
地域別の評価額の違い
山林の評価額は地域によって大きく異なります。
都道府県別の平均評価額(1平方メートルあたり)
高い地域:
東京都:300円〜500円
神奈川県:200円〜400円
大阪府:150円〜300円
中程度の地域:
長野県:50円〜150円
岐阜県:40円〜120円
静岡県:60円〜180円
低い地域:
秋田県:10円〜50円
島根県:15円〜60円
高知県:20円〜70円
山林の固定資産税を安くする方法
保安林指定を受ける
保安林に指定されると、固定資産税が大幅に減免されます。
保安林の種類と減免率:
水源涵養保安林:非課税
土砂流出防備保安林:非課税
土砂崩壊防備保安林:非課税
その他の保安林:50%減免
デメリット:
伐採に許可が必要
利用に制限がかかる
森林経営計画の認定を受ける
森林経営計画の認定を受けると、税制上の優遇措置があります。
メリット:
森林整備に対する補助金の対象
所得税・相続税の特例措置
一部自治体で固定資産税の減免
適切な管理を継続する
荒廃した山林は、宅地や雑種地として再評価される可能性があります。
適切な管理とは:
定期的な下草刈り
必要な間伐の実施
境界の明確化
林道の維持
山林を相続した場合の注意点
相続税との関係
山林は固定資産税は安いものの、相続税では別の評価方法が適用されます。
相続税評価額:
純山林:固定資産税評価額と同程度
市街地山林:宅地比準方式で評価されることもあり、高額になる場合がある
相続後の手続き
所有権移転登記
相続登記が2024年4月から義務化
3年以内に登記が必要
市町村への届出
固定資産税の納税義務者変更届
森林の土地所有者届出書(90日以内)
管理方針の決定
自己管理するか
森林組合に委託するか
売却するか
山林の固定資産税に関するよくある質問
Q1. 山林を所有していることに気づかなかった場合は?
相続や購入時に山林の存在を見落とすケースがあります。固定資産税は所有者に課税されるため、未払いの場合は延滞税が発生します。早急に市町村の税務課に相談しましょう。
Q2. 山林の固定資産税は誰が支払うのか?
毎年1月1日時点の所有者が納税義務者となります。年の途中で売買した場合は、契約で負担割合を決めるのが一般的です。
Q3. 山林を放置すると税金は上がる?
荒廃が進み、宅地や雑種地として再評価される可能性があります。また、管理不十分で災害を引き起こすと、所有者責任を問われることもあります。
Q4. 評価額に納得できない場合は?
固定資産評価審査委員会に審査の申出ができます。納税通知書の交付を受けた日から3か月以内に手続きが必要です。
Q5. 山林の固定資産税は減額申請できる?
災害による被害を受けた場合などは減免申請ができます。また、保安林指定を受けることで大幅な減免が可能です。
まとめ:山林の固定資産税を正しく理解しよう
山林の固定資産税が安い理由は、経済的収益性の低さ、公益的機能の重要性、管理コストの高さなど、複数の要因が組み合わさっています。評価基準は地域や立地条件、樹木の状況などによって細かく設定されており、一般的に宅地の数十分の一から数百分の一程度の水準です。
押さえておくべきポイント:
山林の固定資産税は宅地と比べて大幅に安い
評価額は立地や管理状況で大きく変わる
保安林指定で非課税になる可能性がある
適切な管理で低い税額を維持できる
相続時は別途相続税の評価が必要
山林を所有する際は、固定資産税だけでなく、管理コストや相続税も含めた総合的な視点で判断することが重要です。不明な点がある場合は、税理士や林業の専門家に相談することをおすすめします。