山林の境界確定とは?相続土地国庫帰属制度を利用する前に必ず確認すべきポイント
- 一般社団法人日本不動産管財
- 7月31日
- 読了時間: 4分
更新日:10月3日
相続土地国庫帰属制度を使って山林を手放したいとお考えの方にとって、「境界が明確であること」は申請の大前提です。しかし、山林の境界は宅地や農地と異なり、不明確であるケースが多く、「どこまでが自分の土地なのか分からない」とお困りの方も少なくありません。
本記事では、相続土地国庫帰属制度の申請を目指す方に向けて、山林の境界確定の基本知識から、具体的な手続き・費用感・注意点までを丁寧に解説します。
1. 山林の「境界が明確」とはどういう状態?
相続土地国庫帰属制度の申請要件には「土地の境界が明確であること」が含まれています。これは、下記のような状態を指します。
隣接地との境界が、境界標や杭などで実地に表示されている
法務局の筆界特定制度や境界確定図などの資料で証明できる
境界について隣接所有者と争いがない(トラブルがない)
つまり、「公図で場所は分かるけど、現地には杭もなく、どこまでが自分の土地か曖昧」という状態では、制度の申請が通らない可能性が高くなります。
2. 境界確定の主な方法
山林の境界を明確にするためには、次のような手段があります。
2-1. 測量士などによる現地測量
土地家屋調査士または測量士が現地にて測量を行い、土地の形状・隣接地との境界位置を調査します。
【目的】現地に境界杭を設置し、図面を作成する
【必要書類】登記簿、公図、地積測量図など
【所要時間】1〜3ヶ月程度
【費用相場】1筆あたり20万円〜60万円前後
※山間部や急傾斜地、面積の広い山林では、100万円以上かかることもあります。
2-2. 境界確定協議(隣接地所有者との立会い)
測量結果をもとに、隣接地の所有者との間で立会いを実施し、境界を確定します。
【必要性】「争いがないこと」が制度要件のため、隣接者との合意が重要
【注意点】隣接地の所有者が不明・不在・音信不通の場合、確定が困難
2-3. 筆界特定制度の利用
法務局に申し立てを行い、専門調査官が筆界(公法上の境界)を特定してくれる制度です。
【期間】半年〜1年程度
【費用】手数料1万数千円+測量費用(通常は自己負担)
※紛争性がある場合は、裁判や調停が必要になることもあります。
3. 境界確定が必要な理由(制度面)
相続土地国庫帰属制度においては、「境界不明」「争いあり」「不正確」な土地はすべて不可とされるリスクがあります。これは、国が引き取った後にその土地が第三者とトラブルになることを防ぐためです。
下記のようなケースでは、申請そのものが門前払いになる可能性があります。
ケース | 申請可否 |
現地に杭があるが、資料がない | 場合により可(図面作成が必要) |
境界標も資料もない | 不可 |
隣接地と長年の境界争いがある | 不可 |
隣接者が不明・音信不通 | 原則不可だが場合により可 |
4. 境界確定にかかる費用と注意点
山林の測量・境界確定には、宅地と比べて多くの労力とコストがかかります。特に以下の点にご注意ください。
【山林特有の課題】
境界杭が流失・埋没している
地形が複雑で測量が困難(崖、渓流、林道)
広大すぎて一部しか調査できない
【隣接地所有者の協力】
協力的でないと確定が困難
所有者が高齢・死亡・法人の場合、手続きが遅れる
境界確定は、制度の申請だけでなく、売却や引き取りにも不可欠です。長期的には「今のうちにきちんと確定しておくこと」が、トラブル回避にもなります。
5. 境界確定が難しい場合の代替手段は?
「測量コストが高くて断念したい」「隣接者と連絡が取れない」など、境界確定が難しい場合は、以下のような方針を検討できます。
【別制度の活用】
自治体寄付や隣地への無償譲渡など、他の手段を検討
【民間団体による引き取り】
一般社団法人などが有料で引き取るケースも
6. よくある質問(FAQ)
Q. 公図があれば境界は明確といえる?
A. いいえ。公図は精度が低く、現地と一致しないことも多いため、「明確」とは見なされません。
Q. 過去に登記された地積測量図があれば十分?
A. 状況によります。図面の信頼性が高く、現況と一致していれば可。ただし古い測量図は制度の要件を満たさないことがあります。
Q. 自分で杭を打っても大丈夫?
A. 法的な効力はありません。正式な境界として認められるには、第三者(調査士など)による測量と合意が必要です。しかし相続土地国庫帰属制度においては、隣地の同意が得られる場合であれば可(境界の資料作成が必要)。
まとめ|境界確定は「手放す前の第一関門」
山林の処分や相続土地国庫帰属制度の活用を検討する際、「境界が明確かどうか」は最初にクリアすべき重要な条件です。
測量費用や手間はかかりますが、それを乗り越えることで、
制度の申請が可能になる
売却・譲渡がスムーズになる
将来的な相続トラブルを防げる
といった大きなメリットがあります。
もしご自身での判断が難しい場合は、不動産の専門団体や測量士への相談を早めに行うことをおすすめします。