筆界特定制度とは?境界トラブルを解決する手続きと費用を完全解説
- 一般社団法人日本不動産管財

- 2月4日
- 読了時間: 9分
更新日:10月20日
この記事で分かること
筆界特定制度の基本的な仕組みと活用方法
申請から特定までの具体的な流れと期間
かかる費用の詳細と計算方法
メリット・デメリットと注意すべき点
境界確定訴訟との違いと使い分け
隣地との境界が不明確で困っている、土地の売却時に境界でトラブルになった、改築工事で隣人との認識に食い違いがある…そんな境界トラブルでお悩みではありませんか?
筆界特定制度とは,土地の所有者として登記されている人などの申請に基づいて,筆界特定登記官が,外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて,現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。
この制度を活用すれば、隣人同士で裁判をしなくても,筆界をめぐる問題の解決を図ることができます。
この記事では、筆界特定制度の詳細から申請方法、費用まで、境界トラブル解決に必要な全ての情報を分かりやすく解説します。
目次
筆界特定制度の基本概要
筆界と所有権界の違い
申請から特定までの流れ
費用の詳細と計算方法
メリット・デメリット
境界確定訴訟との違い
申請を検討すべき場面
筆界特定制度の基本概要
筆界特定制度とは
筆界特定とは,新たに筆界を決めることではなく,実地調査や測量を含む様々な調査を行った上で,過去に定められたもともとの筆界を筆界特定登記官が明らかにすることです。
制度の特徴
平成18年(2006年)1月開始の比較的新しい制度
裁判によらない行政手続きとして境界問題を解決
法務局が主体となって筆界を特定
公的な判断として証拠価値が高い
制度創設の背景
隣地との筆界が不明な場合には、土地を売買したり、その土地にある家屋を改築したりしようというときに、筆界をめぐってトラブルになるケースが少なくありません。
従来は境界確定訴訟でしか解決できませんでしたが、裁判では、判断が示されるまでに約2年かかるといわれていますが、筆界特定制度ではその多くが半年から1年で判断が示されます。
申請できる人
申請権者
土地の所有権登記名義人
相続人等の包括承継人
その他利害関係人(抵当権者など)
筆界と所有権界の違い
境界トラブルを理解するために、まず基本的な用語を整理しましょう。
筆界(ひっかい)
土地が登記されたときにその土地の範囲を区画するものとして定められた線
筆界の特徴
登記時に定められた公法上の境界
所有者の合意だけでは変更不可
分筆・合筆手続きでのみ変更可能
時効や売買で移動しない
所有権界
土地所有者の権利が及ぶ範囲を画する線
所有権界の特徴
私法上の境界
当事者の合意で変更可能
売買や時効で移動することがある
筆界と一致しない場合もある
境界
筆界または所有権界と同じ意味で用いられる言葉
重要ポイント
通常、筆界と所有権界は一致しますが、「土地の一部を売買・贈与した」「時効によって所有権を取得した」などの理由で一致しないことがあります。
筆界特定制度で扱うのは筆界のみで、所有権界の問題は対象外です。
申請から特定までの流れ
全体の流れ(6ステップ)
ステップ1:申請
申請先
対象土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局
必要書類
筆界特定申請書
土地の登記事項証明書
地積測量図・公図の写し
申請人の身分証明書
印鑑証明書
筆界に関する資料(あれば)
ステップ2:受付・審査
法務局の対応
申請書類の受理
申請人の適格性審査
記録事項の確認
ステップ3:公告・通知
申請がされた旨の公告を法務局若しくは地方法務局及び管轄登記所に掲示します。また関係人に申請がなされた旨の通知を行ないます。
ステップ4:筆界調査委員による調査
筆界調査委員とは
弁護士,司法書士,土地家屋調査士等の筆界特定のために必要な事実の調査を行うのに必要な専門的知識及び経験を有する者の中から,法務局または地方法務局の長が任命します。
調査内容
現地の実地調査
申請人・関係人からの事情聴取
資料の収集・検討
必要に応じた測量の実施
ステップ5:測量・意見聴取
測量の実施 測量費用の概算額を申請人が予納します。(測量費用の概算額の予納がないときは,申請が却下されます。)
意見聴取 筆界特定登記官に,申請人・関係人が意見を述べたり,資料を提出する機会が与えられます。期日には,筆界調査委員が立ち会います。
ステップ6:筆界特定
特定の実施 筆界調査委員の意見を踏まえ,地図等の内容や様々な状況・事情を総合的に考慮して,筆界特定登記官が対象土地の筆界を特定します。
結果の通知 申請人に筆界特定書の内容が通知され,筆界特定をした旨が公告され,関係人に通知されます。
処理期間の目安
標準処理期間
東京法務局の場合、手続きの案内で目途とする期間として9か月と記載があります。案件にもよりますが、通常9か月~16か月程度の期間を要するようです。
法務局が主体となって筆界を特定してゆく制度で、裁判に比べて処理期間が短く(おおよそ6~9ヶ月と言われています。)
期間短縮のポイント
事前の資料準備を充実させる
専門家(土地家屋調査士等)への依頼検討
関係人の協力を得る
費用の詳細と計算方法
申請手数料
算定基準 申請人の土地(対象土地甲)の価格(○○○万円)に相手方の土地(対象土地乙)の価格(○○○万円)を加えて2で割り,それに0.05(法務省令で定める割合)を掛けて得られた額が,算定の基礎となる額(算定基礎額)になります。
具体例 筆界特定するA土地の金額の評価額が3,000万円、B土地の評価額が4,000万円の場合、で11,200円となります。
手数料表(一部抜粋)
算定基礎額 | 申請手数料 |
50万円以下 | 800円 |
500万円以下 | 5,000円 |
1,000万円以下 | 8,000円 |
5,000万円以下 | 10,000円 |
測量費用(予納手続き費用)
費用の目安 土地の広さや状況に応じて費用は変動しますが、通常の測量費用と同程度と考えておけば間違いありません。一般的な宅地であれば、費用は30万〜50万円になります。
専門家への依頼費用
代理人報酬 筆界特定制度の手続きを代理人に依頼する場合の報酬費用は、10万〜20万円です。
本人申請vs代理申請
本人申請のメリット ・申請代理費用がかからない分安くできる
本人申請のデメリット ・ご本人申請では慣れない作業が非常に多く、肉体的・精神的に疲れる ・筆界調査委員の作業が増える為、特定期間が長引く ・自分が予想していたところではないところが果となってしまう可能性がある
メリット・デメリット
メリット
1. 費用が安い
筆界特定制度でも多少の申請料は掛かりますが、裁判を起こすよりも費用がずっと少なく済みます。
一般的な宅地の測量を行う場合における、測量費用は数十万円程度となりますが、申請手数料と合計しても、裁判に比べて、費用負担は少なくて済みます。
2. 期間が短い
筆界特定制度で筆界が特定されるまでの期間は、約半年~1年が目安です。これでも長いと感じられる方も多いかもしれませんが、裁判になると1年~2年以上の期間を要す場合も多いのです。
3. 人間関係の悪化を防ぐ
隣家との人間関係に悪影響が及びにくいこともメリットでしょう。筆界特定制度で筆界を明確にすれば、お互いが納得した状態で土地の売却や改築工事を行えます。
4. 資料収集負担が軽い
裁での方法と比較すると、筆界特定制度の方が申請時の必要書類が少ないです。専門家が実地調査なども行ってくれるため、それに利用する必要書類のみをそろえることになります。
5. 証拠価値が高い
公的機関が専門家の意見を踏まえて判断するため、証拠価値が高いのもメリットです。
デメリット
1. 所有権界の問題は解決できない
筆界特定制度の利用によって筆界が明らかになっても、所有権界をめぐる境界トラブルを解決できない場合があります。例えば、所有者でない人が土地の一部を長年利用し、時効によって所有権を取得している場合は、筆界と所有権界が一致しません。
2. 申請人のみの費用負担
申請人のみの費用負担。(特定申請を出された相手側は費用を負担しない)
3. 境界杭は設置されない
特定箇所に境界杭を設置しない。
4. 後から訴訟の可能性
筆界特定の結果に対して不服がある場合は、その結果を覆すには裁判所へ訴えを起こすことが必要です。
5. 特定が範囲で終わる場合
特定された筆界が線ではなく範囲(特定しきれない)でとどめられてしまうことがある。
境界確定訴訟との違い
比較表
項目 | 筆界特定制度 | 境界確定訴訟 |
期間 | 6ヶ月〜1年 | 1〜2年以上 |
費用 | 数万円〜数十万円 | 数十万円〜数百万円 |
手続き | 行政手続き | 司法手続き |
効力 | 事実上の証明力 | 法的確定力 |
対象 | 筆界のみ | 境界全般 |
再審査 | 訴訟で争える | 原則不可 |
使い分けの判断基準
筆界特定制度を選ぶべき場合
筆界(登記上の境界)のみが問題
早期解決を希望
費用を抑えたい
隣人関係を保ちたい
境界確定訴訟を選ぶべき場合
所有権界の問題も含む
法的確定力が必要
損害賠償も求めたい
筆界特定で解決しなかった
申請を検討すべき場面
よくあるケース
1. 土地売却時
境界が不明確で売却に支障
隣地所有者との認識の違い
仲介業者から境界確定を求められた
2. 建物建築・改築時
建築確認申請で境界明示が必要
隣地からの越境指摘
外構工事での境界問題
3. 相続時
分割協議で境界が問題となる
相続登記で境界確定が必要
複数相続人間での認識の違い
4. その他
隣地から境界についてクレーム
登記と現地の不一致発覚
公共工事での境界確定要求
申請前の検討事項
事前協議の重要性 筆界特定制度になじむ案件かどうか、事前に相談して確認が必要です。隣接地所有者と境界確認の協議を行なわずいきなり筆界特定制度を利用しようとする場合、所有権界の判断を求めたりする場合は筆界特定制度の趣旨からなじまないといえます。
専門家への相談
土地家屋調査士
弁護士
司法書士
まとめ:筆界特定制度の活用指針
制度活用のポイント
1. 筆界の問題かを明確にする 筆界特定制度で解決できるのは筆界(登記上の境界)のみです。所有権界の問題が含まれる場合は別途対応が必要です。
2. 事前協議を尽くす いきなり制度を利用するより、まず隣地所有者との話し合いを試みましょう。専門家を交えた協議で解決できる場合も多くあります。
3. 費用対効果を検討する 申請手数料は比較的安価ですが、測量費用や専門家報酬を含めると数十万円の負担となります。紛争の規模と比較して検討しましょう。
4. 期間を考慮する おおよそ6~9ヶ月の期間が必要です。急を要する場合は他の解決方法も検討が必要です。
5. 専門家の活用を検討 たとえば、土地家屋調査士に依頼すると、あらかじめ土地の測量を済ませたうえで筆界特定の申請が可能です。
最終的な判断
筆界特定制度は公的な判断として筆界を明らかにできるため,隣人同士で裁判をしなくても,筆界をめぐる問題の解決を図ることができます有効な制度です。
しかし、あくまで「登記上の筆界を特定する」ことに主眼が置かれていますので、すべての境界トラブルが解決できるわけではありません。
境界トラブルでお困りの際は、まず専門家に相談し、筆界特定制度が適切な解決方法かを判断することをお勧めします。適切に活用すれば、時間と費用を節約しながら公正な境界確定を実現できる制度です。
💡 境界トラブルでお困りの方へ 筆界特定制度の利用を検討される前に、まず管轄の法務局や土地家屋調査士会にご相談ください。事案に応じた最適な解決方法をアドバイスしてもらえます。


